ARやVRという言葉を耳にされたことがある方は多いと思います。
AR=Augmented Realityは「拡張現実」と訳され、現実世界に対して人工的に視覚、聴覚、触覚、嗅覚などを通じた新しい情報が追加された環境を指します。典型例としては、GoogleのGoogle GlassなどのスマートグラスのベースになっているのがAR技術であり、将来的にスマートグラスがスマホに取って代わると予想する人も少なくありません。
また、VR=Virtual Realityは「仮想現実」と訳され、現実世界とは別個に人工的に視覚、聴覚、触覚、嗅覚などを作りだし、現実のように体験できる環境を指します。なおメタバースは、まさにVR技術によって展開される空間であり、ソーシャルの場は将来的にメタバースになるとの信念のもと、Facebookは社名を「Meta」に変えたのは有名な話です。
そこに加えて、第三のリアリティとなる「パラレル・リアリティ」(並行現実)という言葉が聞かれるようになってきました。ARやVRと同様の説明を試みると、現実世界を構成する要素を視覚、聴覚、触覚、嗅覚などのカスタマイズを通じて、各人が同時並行的に別々の体験ができる環境ということになります。前述のメタバースがVR技術の進展によって社会インフラとして整っていくと、メタバースが並行的に存在するマルチバースに移行していくとも言われています。
さて、そんなパラレル・リアリティの具体例としては、直近のニュースで話題になっている、デルタ航空がデトロイト空港に導入した空港案内ディスプレイがあります。
パラレル・リアリティを活用した空港案内ディスプレイの仕組み
- 6メートル x 1.8メートルのボードは、見る人の角度によって表示を変えることができ、顔認証技術などを通じて搭乗者それぞれにカスタマイズされた情報を表示
- 一つのボードで一度に100人分のカスタマイズされた情報を、ボードの前に立つ各搭乗者向けに微妙に角度を変えながら混線させることなく表示が可能
- 頭上のモーション・センサーで搭乗客が搭乗券をスキャンする様子を感知し、顔認証技術で当該客向けの角度を察知し、各人向けに個別情報を表示
本技術を開発したMisapplied Sciences社は、パラレル・リアリティの活用方策として、以下のポテンシャルを謳っています。
- 国際化・おもてなし: コンテンツを各視聴者の言語に対応
- マーケティング:視聴者一人ひとりの関心や興味、行動、環境に合わせた広告の展開
- エンターテインメント:メディア、メッセージ、照明効果などが視聴者一人ひとりに合わせて調整
- 道案内:目的地に合わせた道案内を実現
- 交通標識・信号:ゾーン、レーン、車両ごとにカスタマイズ
- 識字性アップ:距離、視野角、視線に配慮した表示
- 人の流れを管理:視聴者ごとに最適な退出・避難経路を提供
- 建築照明・効果:照明器具や照明効果を視聴者ごとにカスタマイズ
それでは、パラレル・リアリティの概念や技術の進展・浸透は、私たちの社会やビジネスにどのような示唆を与えていくのでしょうか?
以下、EISの考察です
- 消費者一人ひとりに最適化された情報伝達や価値訴求の重要性がますます高まる(パラレル・リアリティ技術により、消費者がいちいち選択や設定をしなくても、自動的に個人向けに最適化された体験ができるようになる)
- SDGs、障害者、マイノリティ保護等の観点から、これまで「ユニバーサル」の概念が普及してきたが、「マルチバーサル」(個別最適化)という方向性も可能となり、パラレル・リアリティ技術の活用・応用が進展する
- パラレル・リアリティ技術の進展で、社会や市場の分断・細分化がより一層進み、政治的な合意や産業・事業構造のあり方も不可逆的に変化するため、そうした潮流を見据えた社会システムや組織体制の適応化が必要となる