日米ともにブラックフライデーを迎え、ついつい高級ブランドのファッションアイテムを購入してしまった!という方も多いのではないでしょうか。コロナが落ち着き外出も増える中、ラグジュアリーブランドの売上は増加傾向にある一方、ファッション業界におけるCO2排出量も増加傾向にあります。実際に、ボッテガ・ヴェネタやGUCCIなどの人気ブランドを傘下に持つグループKeringでは、2022年のCO2排出量が前年比12%も増加したと報告しています。
一方で、デロイトによる2022年の調査では消費者の57%が購入時にサステナビリティ要素を考慮しているとの結果が出ており、感度の高いファッションブランドでは様々な取り組みが見受けられます。例えば、PatagoniaやLevi’sではリサイクルプログラムを実施しています。
Fashion for Goodのレポートによると、ファッション業界におけるCO2排出量の96%は製品が作られるまでに排出、その中でも生地が作られるまでに90%が排出されています。残念ながら、リサイクルプログラムだけでは抜本的な解決策とは言い難いのが現状です。
一方で、多くのCO2が排出される生地製造においてカーボンネガティブを実現するスタートアップが立ち上がっています。今回は米国発の2社をご紹介します。
KeringやLevi’sも利用するカーボンネガティブな染料メーカー
ブラックジーンズに、ブラックミニドレス、ファッションアイテムには黒が溢れていますが、どのように染められているかご存知でしょうか。カーボンブラックと呼ばれる合成染料が主流で、石油または天然ガスを燃焼して生成された黒色のすすを使っており、1kgの染料あたり最大1.91kgのCO2を排出しています。
ラスベガス発のスタートアップNature Coatingsは、CO2を排出するカーボンブラックと真反対をいくカーボンネガティブを実現する染料を開発。従来の原料である石油の代替として木材廃棄物を利用、木材がCO2を吸収するために、同社の染料1kgあたりのCO2排出量は最大-0.89kgと、カーボンネガティブを見事に実現。2017年には発売に至っており、現在ではKeringとLevi’sを顧客として抱えています。
さらに、2023年8月にはレオナルド・ディカプリオも参加するシードラウンドで$2.5M(約3.7億円)を調達。ジョージア州での新しい生産施設の開発やクライアント拡大に活用される見込みで、今後の成長に目が離せません。
Nature Coatings社の染料、BioBlack TX
H&MやPatagoniaも出資するCO2を原料とした繊維メーカー
木材パルプを原料とした素材リヨセルは化学繊維と比べるとサステナブルですが、それでも生産過程では生地1キロあたり最大10kgのCO2が排出されてしまいます。一方で、サンフランシスコ発のスタートアップRubi Laboratoriesは、なんとCO2を原料にリヨセルを生産するといった、カーボンネガティブな生産方法を確立。
CO2を酵素と掛け合わせてセルロースへ変換、その後セルロースを用いてリヨセル糸を作り出すといった技術です。近い将来には繊維工場と提携し、工場で排出されたCO2を回収、同時にセルロースへ変換するオペレーションを確立することを発表しています。
参考動画:Rubi Laboratories社の繊維の生産過程
以下、EISの考察です
- 産業全体の温室効果ガス排出量の内、ファッション業界が占めるシェアは最大で8%程で、排出量に与えるインパクトは大きいとは言い難い。
- しかし、ファッション業界が気にかけるのは消費者トレンドであり、こういった取り組みが消費者に良いブランドイメージを与え、間接的に製品の売上拡大に寄与する。
- 昨今、Rubi LaboratoriesのようにCO2から繊維を製造する企業は増えているが、生産コストが課題。
- 数年前から注目を浴びているCCS技術も、大手企業や政府からの出資により技術競争が加速。現在ではかなり生産コストが落ちてきている。CCSと同様に、CO2を原料とした繊維製造もここから数年後には生産コストの課題も解決されるだろう。