バービー人形をコンセプトとした映画「Barbie」がアメリカでは7月21日に公開。日本でも8月11日に公開予定です。アメリカのみらず、世界中で永遠のアイコンとして愛されるバービー。TikTokの宣伝動画では2000万回を再生するほど、公開前から高い注目を集めています。
バービーを販売する玩具メーカーMattel社はバービー映画化に莫大な資金を投じています。どういう背景で玩具メーカーが映画業界に踏み入れたのか、そして少子化が懸念される玩具メーカーの今後の動きを映画「Barbie」やアメリカの玩具メーカーから読み解きます。
Mattel社が目指すのは”ディズニー化”
バービーの映画化が決定した2018年。まさにこの時期、トイザラスが倒産、玩具業界は不振に陥っていました。この映画化も売上不振を受けての決定だったのでしょう。この時期にMattel社トップに就任したイノン・クライツ氏は、Mattel社はディズニーに次ぐ子供向けエンターテイメントのラインナップを持っていると主張。
マーベルが経営不振のコミック出版社からハリウッドの巨大企業に成長したのと同様に、そしてディズニーがIPビジネスで拡大を続けるように、彼はMattel社を玩具メーカーから知的財産を管理するIPビジネスへと移行することが必要だと語っていました。その後、ライセンスをソニーから取り返し、すぐに映画化の話を発表。
5年の時を経て、今回ようやくIPビジネスの第一歩が踏み出されることになります。
同社は「バービー」以外にも、 カードゲームのUNOやpolly pocketなど古くから人気のおもちゃコンテンツを抱えています。それらのコンテンツを題材として映画が今後17本も公開されることが決定されており、IPビジネスに大きく舵を切ったことが窺えます。
玩具メーカーが狙う”Kidults市場”
NPD グループの最新の統計によると、子供のためではなく自分のために買い物をする大人がおもちゃの総売上高の4分の1を占め、その総売上は90 億ドルを超えます。さらに、2021年から 2022 年までの売上成長の60%をこの大人世代が占めているのです。
子供向けのおもちゃを大人が買う、特殊な市場をアメリカではキッズとアダルトを掛け合わせた「Kidults市場」と呼ばれており、コロナのパンデミックが後押しとなって成長。
パンデミックが収まった現在も、少子化によって売上減少が懸念される玩具メーカーたちはKidultsをターゲットに数々の施策を打っています。
2022年には、Mattel社のAmerican Girlという人形をモチーフにしたカフェ「American Girl Cafe」がニューヨークにオープン。来店する層は子供ではなく、大人がメイン。それを受けて、子供は苦手そうなビートとヤギのチーズのサラダや、おしゃれなカクテルを提供。このカフェでは、かつてAmerican Girlに虜だった女性たちが、お気に入りの人形からインスピレーションを得た衣装を着てお店に出向いてカクテルを楽しむといった、子供と大人を掛け合わせた特別な体験ができることで話題に。
大手テディメーカーBuild-A-Bearでは、18歳以上を対象としたウェブサイト「Bear Cave」を立ち上げ、カクテルを持ったぬいぐるみを販売。価格も子供向けのものよりも高めに設定されています。その取り組みもあり、現在Build-a-Bearの総売上高の40%は成人と十代の若者になっており、その割合は2012年から20%も増加。
以下、EISの考察です
- 日本でも漫画キャラクターを始め、強力なキャラクターはIPビジネスへのシフトが盛んである。しかし、個々には知名度が低いキャラクターはIPビジネスへのシフトが難しい。この状況を脱却するには、他社同士であっても協力し、複数のキャラクターによる共通のIPビジネスを目指すことで、日本のキャラクタービジネスは更なる飛躍が期待できる。
- 日本では子供に人気だったキューピーちゃんが、現在Sonny Angelという名でアメリカのZ世代、特に可処分所得を持ち始めた高校生から大学生にかけて人気を博している。これは、地域が変われば同じIPであってもターゲット層が異なることを示しており、地域の違いを活かしたKidults市場への参入も今後増えていくだろう。
- 昔のカプセルトイは子供向けであったが、現在の日本においてカプセルトイはまさにKidults市場の代表例として大人の間でも大人気である。上記では地域差を活かしたパターンを取り上げたが、世代差を活かして昔の子供向け玩具を大人向けに手を施すことでKidults市場へ参入することもできる。