いよいよ来年、Paris2024が開催されます。世界最大の観光ブランド都市であり、文化・芸術、ライフスタイル、そしてイノベーションの発信地であるパリならではの、斬新かつユニークな施策が発表されています。大会開催を心待ちにしつつ、Paris2024のビジョンや取組みから学べることが多そうですので、本記事で取り上げたいと思います。
一般に開かれた史上最大の開会式
オリンピック史上で初めてとなる、競技場外で一般に開かれた開会式が行われます。各国の選手団はセーヌ川をボートで下り、その姿は、一部の有料区域を除いて、一般人が無料で見ることが出来ます。最低でも60万人以上の観戦者数を想定しているようです。
市民も参画できる競技設計
競技にも前例にない工夫が加えられるようです。マラソンは、選手向けと同日に一般走者向けのレースが行われ、高齢者や障害者も参加できるよう、いくつかのカテゴリーが設けられます。自転車競技についても、一般向けのレースが開催されます。
男女平等の徹底
従前のオリンピックは、どうしても男性競技が目立つ形でスケジュール等が組まれてきました。ハイライトを飾るマラソンも、最後に行われるのは男子マラソンでしたが、今回は、順番を入れ替えて女子マラソンで幕を閉じる初の大会になります。
高齢者・障害者対策
世界でも最も古い歴史を持つパリの地下鉄は、構造上の問題もあり、ほとんど車椅子対応が進んでいません(14番線のみで、全体の3%)。同大会では、35万人の障害者(車椅子利用者)の参加を見込んでおり、車椅子と電動スクーターを繋ぐアタッチメントを開発し、導入する予定です。
環境対策/サステイナビリティ
パリは既に様々な環境対策を推進していますが、Paris2024では、二酸化炭素排出量を過去の大会の半分に削減するという大胆な目標を打ち出しています。もちろん、目標だけでなく、具体的な施策を次々を実行・発表していますので、代表的な施策をご紹介します。
コンパクト・オリンピック
パリは既に様々な環境対策を推進していますが、Paris2024では、二酸化炭素排出量を過去の大会の半分に削減するという大胆な目標を打ち出しています。
- 競技施設の95%は、既存又は仮説の施設を利用
- 観客の移動手段は、全て公共交通機関(地下鉄、トラム、自転車)又はアクティブモビリティ(自転車、徒歩)のみに限定
⇒大会の入場券を持っていれば、公共交通機関は無料で使いたい放題 - 大会期間中に運行されるバスは、全てゼロエミッション車
- 競技参加者の移動は、30分以内になるよう宿泊施設の割り振りを工夫
- 「15分シティプラン」の遂行:食料品店、公園、カフェ、スポーツ施設、医療施設、学校、職場など、市民の生活に必要な施設が、徒歩又は自転車で15分以内の距離にあるよう設計
都市緑化
パリ市内に17万本もの植林を行うという大胆な都市緑化や、Paris 2024に併せた具体的な緑化策が明らかになってきました。
- エッフェル塔/シャン・ド・マルス、トロカデロ広場等を含む「グランサイト」と呼ばれるエリアの緑化
- シャンゼリゼ通りは、 車線を半分に減らし、樹木を植えて緑のトンネルにする(大会後に完遂)
セーヌ川の水質改善
シラク元大統領が本計画を打ち出して以来、悲願となっていた本計画がとうとうParis2024に向けて実現されることになりそうです。(まだ難しいのではないかという報道もありますが。)
- 国、イル・ド・フランス地方公共衛生局、パリ市、などの関係行政が一体となって、パリ上流の下水処理場(Noisy-le-Grand, Valenton)の排水システムの改修を実施
- 目論見どおり水質の改善が進めば、セーヌ川でオープンウォータースイミングやトライアスロン大会を開催予定
自転車の利用促進
パリ市は、自転車専用レーンの整備や公共自転車の配置・利用促進において、世界で最も進んだ都市と言えますが、Paris2024に向けてさらに強力に推進するようです。
- 道路や駐車場の自転車専用レーンへの改修について、大会会場と周辺地域を結ぶ「2024自転車道」(200km以上)を追加
- 13万台以上の駐輪スペースの設置
- 自転車修理人材の確保(50€/人の支給)
選手向けインフラ
選手村や選手専用道路等のインフラについては、パリ近郊地域の再開発・活性化を見据えて、環境に優しい技術やルールを適用し、大会後も維持する予定です。
<選手村>
- 冷房の代わりに、各部屋の床下に張ったパイプに冷たい地下水を通し、自然の力を利用した床冷房を導入
- 従来のコンクリートに代えて、全体の50%は生物由来の材料(木材、低炭素コンクリート)を使用
- 一般人の12倍もの酸素が必要と言われるアスリート向けに、PM2.5やPM10等の有害物質を99%カットする空気清浄機の導入
<選手専用道路>
- パリ市を囲む環状道路の制限速度を70㎞から50㎞に下げ、一部車線(185㎞)は選手の移動のために確保
- 大会後も、当該車線を相乗りや公共交通機関(バス)専用レーンに制限
AI等を用いた安全対策の強化
前述のとおり、前例のなくオープンな大会を実現させるために、AI等の最新技術を用いた警備や防犯対策が打ち出されています。
- AIを活用して観客の動きを監視できる「オリンピック法」を成立させ、火災の発生、群衆の異常な動き、不審に放置された荷物などを、街中の各所やドローン等に設置した防犯カメラで探知
- 今秋、フランス国内で行われるラグビー・ワールドカップにおいて実証実験を実施する予定
以下、EISの考察です
世界の主要国、とりわけ欧米を中心とする先進国は、成熟国家として、「経済成長」から「多様性・ジェンダー」や「生態系・環境配慮」へと、施策の舵取りや優先順位を変えています。オリンピックのような世界的なイベントは、全世界に向けて新しいビジョンを打ち出し、開催地においては、既存のルールやインフラをアップデートし、新時代に残るレガシーを創る絶好の機会となります。そうした観点から、Paris2024は、世界の人々にとって意義のある壮大な実証を行うべく、非常に意欲的な大会を目指しているように見えます。大会・競技を楽しむだけでなく、SDG推進、都市計画、環境対策、交通政策などの様々な側面において、国・自治体当局、関係事業者のみならず、それぞれの国の有権者である一般市民の私たちにとっても、目の離せない、学びの多い大会となることでしょう。