ロシアのウクライナ侵攻に起因するロシア天然ガスの遮断は、欧州経済に甚大な影響を与えています。総発電量の7割以上が原子力であるフランスは、ドイツ等の隣国と比べて比較的影響が小さいとはいうものの、日常生活においてもその深刻さを目の当たりにするようになってきました。
新学期を迎えたのに、30もの公営プールが閉鎖に
フランスでは新学期が始まったところですが、Le Mondeの記事によると、約30のプールが閉鎖に追い込まれました。さらに、暖房等によりエネルギー需要が急増する冬季には、国内で約4000ある公共プールの10%が閉鎖を検討しているとのこと。プールの水を温めるために天然ガスを大量に使用するため、エネルギー価格高騰の影響をもろに受けているのです。水泳はフランスの小中学校の教育課程の中でも優先科目とされており、早くも青少年教育への悪影響が懸念されています。
来冬には、オープンできないアルプスのスキー場も?
フランスの公共ラジオ放送局France Infoのニュースは、来たる冬にいくつかの国内のスキー場は閉鎖を余儀なくされるだろうと報じています。スキー場は、ゴンドラやリフトなどで電力消費ピークである日中に大量の電力を必要とするため、価格高騰の影響を受けやすいのです。通常、電力会社(EDF)との契約を3年毎に更新するそうですが、今年改定するタイミングのスキー場は例年の20倍もの価格を提示されており、このままでは閉鎖せざるを得ないと警鐘を鳴らしています。
木質バイオマス燃料までも高騰
ガスや電力価格の高騰が伝えられる中、家庭におけるペレットストーブへの需要が急激に高まっています。こちらは木質バイオマス燃料を利用しており、経済的にも環境にも優しい暖房施設として北欧を中心に、欧州で広まってきたものです。まだまだ30度を超す日も多い残暑の折、ペレットストーブの新規注文の納入時期はすでに7カ月先となっているそうです(それでは、もう冬が終わっていますね)。
さて、燃料のペレットは、クリスマスツリーや木材からできたおがくずやウッドチップを高度に圧縮して再利用するため、地産地消が可能、エネルギー効率が良い、地球環境にも優しい、電気やガスなどと比べて安いと様々なメリットが謳われてきました。ところが、この代替エネルギーであるはずのペレットの価格までもが高騰しています。昨年、15㎏パック一袋当たり約4~5ユーロだったものが、目下、10~13ユーロで売られており、さらにどんどん高くなる傾向にあります。
消費者のパニック的な購買衝動も原因?
なぜ、電気や石油燃料の代替であるペレットの値段がこんなに高騰しているのでしょう。 ペレットの製造過程や配送過程で一定の電気や石油燃料を使うとしても、最終価格が2~3倍になるといったインパクトではないはずです。 そうした状況で、消費者のパニック的な購買衝動のせいだとする論と、そうした消費者の足元を見た製造業者の過度な価格吊り上げのせいだとする論の「鶏か卵か」的な応酬が強まっています。
当局は対応策を打ち出すも、決め手に欠ける?
こうした状況に対して、欧州各国の対応策を俯瞰すると、大体、以下の項目に分類されるようです。
- 省エネの励行
- 消費者・企業向け減税等支援措置
- 原子力発電の稼働延長・新規設置
- 再生可能エネルギーへの投資促進
- エネルギー企業の超過利潤の監視
しかし、いまいち決定打に欠けるのと、いつまで持つのかという継続性の面で、なかなか厳しい状況にあると言わざるを得ません。そうした中で今後の社会・政治情勢はどうなっていくのでしょうか。
以下、EISの考察です
- 当局や市場が消費者パニックの抑制に失敗すれば、様々な商品やサービスにおいて、価格の急騰が起きる可能性は十分にあり、不安定な経済状況が続く
- そうした中で、再生可能エネルギーへの転換や自動車のEV化など、地球環境問題等で設定された様々な目標のスコープや実現時期の見直しを迫られる
- さらに、エネルギー安全保障が再びホットなトピックとなり、原発の再稼働・新設や地政学的な化石燃料パイプラインの確保への政治的な動きが強まる
- 日本は、欧州が主導で定めてきた国際的な目標や規範に盲従するのでなく、上記のような軌道修正が有り得るという、現実的な視点で国際政治・経済に対応していく必要がある