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カーボンクレジットは、1997年の京都議定書を受けて誕生し、京都議定書の下、先進国は温室効果ガス(GHG)の排出削減を約束しました。この議定書は、Clean Development Mechanism(CDM)を含む3つの柔軟なメカニズムを規定しており、CDMは、先進国が途上国の排出削減プロジェクトに投資し、削減された二酸化炭素換算量1トンごとに認証排出削減量(CER)を獲得できるようにするものです。これらのクレジットは、先進国が自国の排出削減目標を達成するために使用することができます。
カーボンクレジットは、アフリカにとって貴重な資金調達の機会で、持続可能なプロジェクトへの投資を呼び込む仕組みを提供します。アフリカ諸国は、カーボンクレジット・プログラムを利用して、再生可能エネルギーへの取り組み、森林再生プロジェクト、気候変動に強い農業慣行などに資金を提供することができ、これらのクレジットは収益を生むだけでなく、排出量の削減にも貢献します。さらに、カーボンクレジットによる資金調達は、テクノロジーの発展、経済発展、世界のグリーン経済におけるアフリカの地位を向上させ、環境の持続可能性と経済成長の双方にとってWin-Winのシナリオを生み出す可能性があります。
最近のカーボンクレジット価格の上昇を考えると、これはアフリカでのさらなるプロジェクト開発のインセンティブになるかもしれません。すでに、アフリカではカーボンクレジットに関わるいくつかのプロジェクトが進行中ですが、アフリカ市場が持つポテンシャルに比べればまだまだニッチな市場です。
本稿では、最新のカーボンクレジット市場の動向、プロジェクトがカーボンクレジットを販売するためのステップ、そして実際の事例を検証することでカーボンクレジットがアフリカのコミュニティにどのように役立っているのかをみていくことで、アフリカにおける課題の潜在的な原因を探りました。その結果、カーボン基準の多様性、カーボンクレジットの信頼性、取引コストがアフリカでのプロジェクト開発の障壁となっていることがわかりました。
カーボンクレジット
カーボンクレジットは、気候変動に対処し、温室効果ガスの排出を削減します。このクレジットは、大気から排出される二酸化炭素換算(CO2e)1トンを定量的に削減または除去することを意味し、これらのクレジットは、カーボンマーケットで売買することができます。このように、カーボンクレジットは、環境に配慮し、気候への影響を削減する経済的インセンティブを生み出す、市場主導型のメカニズムです。
Mandatory vs. Voluntary Market
カーボンクレジットは2つの異なる市場で取引される
- Mandatory Carbon Market:排出量を相殺することが法的に義務付けられている企業や政府が利用する市場。この市場に参加する国は京都議定書の締約国です。
- Voluntary Carbon Market:Mandatory Carbon Marketとは独立した市場で、企業や機関が自主的に参加できます。排出量を相殺するための規制によって市場が制約されることはありません。
カーボンクレジット市場における最近の進展
カーボンクレジット市場は発足以来着実に成長し、2022年の取引額は8,500億ユーロに達します。世界最大のカーボンクレジット市場は欧州にあり、2005年に導入されたMandatory Carbon MarketであるEU ETSが大きな存在感を示しており、世界の取引額の87%を占めています。
日本もカーボン市場のインフラを整備し、今年10月には東京証券取引所が政府認証のカーボンクレジットであるJ-クレジットの取引を開始しています。
カーボンクレジットの登録、公表、販売の要件
カーボンクレジットの販売、収益を上げるの5つのステップ
- プロジェクトの特定 (Feasibility)
- カーボンクレジット基準との取り組み (Validation)
- プロジェクトの実施 (Operations)
- モニタリングと検証 (Verification)
- カーボンクレジットの発行 (Sales)
1. プロジェクトの特定 (Feasibility)
プロジェクトは2つのカテゴリーに分けられます。
①Emission removal:大気中の炭素を除去し、バイオマスや岩石に長期的に隔離するプロジェクト
②Emission avoidance:通常シナリオの下で排出されるであろう温室効果ガスの排出を防止するプロジェクト
2. カーボンクレジット基準との取り組み (Validation)
カーボンクレジットの基準は、プロジェクト開発者が排出削減プロジェクトを登録し、検証するためのルールと要件を定義しています。例えば、プロジェクトの種類、排出量の測定方法、報告方法などが要求事項の構成要素の一部であり、基準は炭素標準化団体によって開発・管理され、プロジェクトがその排出基準に適合しているかを検証し、プロジェクトが登録・検証されると、カーボンクレジットが発行されます。
ここでは、カーボン・プロジェクトが利用できる既存の基準をいくつか紹介します。
3: プロジェクトの実施 (Operations)
プロジェクト開発者によってプロジェクトが実施されるときに発生するステップ
4. モニタリングと検証 (Verification)
独立した第三者がプロジェクトを監視・検証し、選択したカーボンクレジット基準の要件をすべて満たしていることを確認します。また、検証者はプロジェクト報告書の正確性もチェックします。
5. カーボンクレジットの発行 (Sales)
最終的に、カーボンクレジットは発行され、市場で取引されます。Voluntary Carbon Marketでは、カーボンクレジットは次の2つの市場で販売されます。
①Primary market: プロジェクト・デベロッパーとオフテーカー間の店頭での二者間売買
②Secondary market: ブローカー、トレーダー、取引所を通じて購入
CBL(ニューヨークを拠点とする最大の炭素クレジットのスポット取引所)やACX(AirCarbon Exchange)(シンガポールを拠点とする取引所)のような取引所は、カーボンクレジットの基本的な仕様を保証するカーボンクレジットの標準商品を作っています。これにより、カーボンクレジットの取引が容易かつ迅速になり、カーボンクレジットを購入するトレーダーや金融関係者に好まれています。
アフリカにおけるカーボンクレジットの可能性
カーボンクレジットは、アフリカの経済発展に貢献することができます。アフリカの経済発展と人々の生活向上を達成するためには、2つの方法が考えられます。
1. 排出削減製品の価格引き下げ
薪や木炭の使用を削減できる調理用ストーブや浄水器などの製品の導入は、経済発展に貢献できます。カーボンクレジットからの収入は、設置費用の補助や燃料使用のランニングコストの削減によって、これらの代替燃料の使用価格を下げるために使用することができます。その結果、人々は安価ですぐに使えるエネルギーを利用できるようになり、日常生活や経済活動が豊かになります。
システムの使用例
SunCulture (About Us – SunCulture)/ ケニア:2013年
オフグリッドソーラー技術を利用して、水、灌漑、照明、携帯電話充電を1つのシステムで確実に利用できるようにすることで、零細農家が直面する最大の課題を解決することを目指しています。同社は、ソーラー灌漑設備を農家に従量制で販売している。
カーボンクレジットを利用することで、ソーラー灌漑システムの価格を引き下げ、農家にとって灌漑がより身近なものになるようにしています。価格の引き下げは重要な要素で、価格と対応可能な市場には反比例の関係があることがわかっています。例えば、月々の価格を50%引き下げると、対応可能な市場は600%以上増加します。そのため、カーボンクレジットを利用したSunCultureのアプローチは、アフリカのコミュニティーに大きな影響を与えることができます。
KOKO Networks (Clean Ethanol Cooking Fuel & Stoves | Carbon Offsetting Africa – KOKO Networks)/東アフリカ:2013年
KOKO Networksは、木炭などの汚れた調理用燃料を液体バイオエタノールに置き換えることを目指しており、KOKOクッカー&キャニスターの販売を通じて川下のサプライ・チェーンと統合し、燃料補給を改善するためにエタノール燃料の小売のためのインフラを開発することによって達成されます。
同社はカーボンクレジットの販売で1億米ドルを調達し、この資金で調理用ストーブのコストを85%補助、燃料を木炭より40%安くしています。カーボン排出量を削減するだけでなく、アフリカの低所得世帯にとって、調理をより手頃な価格でやりやすいものにしています。
2. Benefit Sharing Agreements (BSAs)
BSAは、プロジェクト開発者と地元コミュニティとの間の金銭的な関係を構築し、プロジェクトの利益がすべてのステークホルダー間で共有されるようにするための協定です。プロジェクト開発者、投資家、地域住民は、プロジェクトの潜在的価値の総額、地域社会に還元される割合、利益の分配方法などについて交渉することができます。
BSAを利用することで、アフリカのあらゆるカーボン・プロジェクトは、経済開発を支援し、人々の生活を向上させる可能性があります。
Olkaria II Unit 3 Geothermal Expansion Project (Kenya-Olkaria-II-Geothermal.pdf)
このプロジェクトは、2010年に開始されたケニアのプロジェクトで、既存の地熱発電所に35MWの発電機を追加、年間276GWhを国営送電網のグリーン化に貢献し、化石燃料によって生成されるはずだった年間149,632トンのCO2を削減しています。
さらに、地熱発電所周辺に住む主に農業と家畜に依存する貧しいコミュニティを支援するためのCommunity Benefit Plan(CBP)の資金源として、そのカーボン収入を使っています。CBPは、以下のような地域のインフラの建設と改善に資金を提供しています。
- 6ヶ月間水を溜められる水汲み場(1,500人と7,000頭分の家畜)
- 6つの新しい学校の教室(300人の子どもたち)
- 近隣の村への10kmの水道管延長(2,000世帯分)
- 地方道路網の補修と改善(約5,000世帯分)
- プロジェクト建設期間中、200人以上の地元の若者に雇用を提供
克服すべき課題
カーボンクレジットはアフリカの開発にとって大きな可能性を秘めているように見えるが、このシステムを大規模に採用し、長期的に持続可能な発展を遂げるにはまだまだ課題があります。
1. カーボンクレジット基準の多様性
上記の基準一覧からわかるように、プロジェクトが登録できる既存の基準は少なくとも6つあります。各基準の検証基準はそれぞれ異なるため、カーボンクレジットの標準化は困難です。このことは、Voluntary Carbon Marketにおける供給者と購入者間の取引コストを増大させ、取引所市場におけるカーボンクレジットの円滑な取引を妨げ、その結果、カーボンクレジットの大半は、いまだに二国間の店頭取引を通じて取引されています。カーボンクレジットの標準化は、既存の取引所市場を活発に利用し続けるためにとても重要です。
2.カーボンクレジットの信頼性
カーボンクレジットの信頼性には潜在的な問題があり、長期的にはこのカーボンクレジット制度の持続可能性を阻害します。最近の調査では、カーボンクレジットを販売したプロジェクトの78%がジャンクであるとされ、その信頼性については未だに懐疑的です。
カーボンクレジットに不信感があれば、カーボンクレジットの価格が暴落し、アフリカ開発のための資金調達ができなくなる危険性があります。そのため、プロジェクトを検証・監視する厳格な方法を維持するための効果的な解決策が必要です。
3. 取引コスト
最後の課題は、プロジェクト開発からカーボンクレジットの販売までの取引コストです。これは、プロジェクトの資金調達のために炭素クレジットの収入を必要とするプロジェクト開発者にとっての懸念事項で、新しい革新的なプロジェクトが市場に参入するのを妨げる可能性があります。その主な原因は、プロジェクトの検証とモニタリングにかかる時間の長さにあります。そのため、カーボン・オフセット・プロジェクトの大規模な展開を達成するために必要な時間を最小化するための解決策が必要です。
以下、EISの考察です
- カーボンクレジットは、開発途上国、特にアフリカにおける持続可能性と開発目標を達成するための有望なソリューションになりうる
- カーボン・オフセット・プロジェクトがアフリカの農村部の人々の生活に波及効果をもたらすことが、実例によって示されている
- しかし、カーボン・オフセット制度の大規模な実施と持続可能な継続には課題があることが指摘されていおり、カーボン・スタンダードを統一化し、より厳格にする必要がある
- 検証段階での自動化のためにAIなどの技術を統合し、プロセスを正確かつ迅速に行うことで、この分野に特化した有望な新興企業が協力し合い、このカーボン・クレジット分野にも参入してくるかもしれない