いよいよ、ドイツで今年中にも娯楽用大麻の合法化がされるか?と話題になっているのをご存知でしょうか。このような規制緩和や法改正を追い風に、ヨーロッパではグリーンラッシュが起きています。
そんな中、6月下旬にロンドンで開催された大麻の国際会議:Cannabis Europa 2022(カナビス・エウロパ)に、EISチームも参加してきました。当カンファレンスはヨーロッパの大麻市場に焦点をあてており、2018年からは業界にとって年に一度のネットワークイベントとしても機能しています。今回の記事では、Cannabis Europaを通じて我々が感じた、ヨーロッパにおける大麻ビジネスの展望についてまとめました。
CBDのコモディティ化
今やヘルスケアや美容業界においてCBDはもの珍しいものでなく、単なる有効成分の一つとなったため、CBD自体が製品へ付加価値をもたらすと考えられなくなってきています。特にイギリスでは、CBDを含む製品はほとんどがTesco、 Aldi、 Sainsbury’sといった大手スーパーマーケットチェーンやBootsや Holland & Barretといったドラッグストアでも購入できるほど一般的になりました。
CBDとは?
カンナビジオールの略称で、大麻に含まれる物質「カンナビノイド」の一つ。炎症を鎮めたり、不安を和らげたりする作用があると言われており、精神活性作用、習慣性や依存性もない。
CBDのコモディティ化を受け、現在、非医療用/非娯楽用大麻として大麻関連商品を販売するブランドの多くは、CBG、CBN、CBDV、THCV、CBDA、CBC、CBEといった他のカンナビノイドや、大麻特有の香りを与えている成分であるテルペン(リモネン、ミルセン、ピネンなど)、またはそれらを組み合わせた商品開発に注力しています。
イギリス:積極的なロビー活動を展開し、法改正を整備中
非精神作用のカンナビノイドに関する英国の規制は、Brexit:イギリスの欧州連合離脱以降、他のヨーロッパ諸国よりも早く進んでいます。イギリスの食品基準庁であるFSAは、国内で合法的に販売される製品の明確なプロセスと規制の枠組みを定義し、既に6000の製品をホワイトリストへの登録が完了しているそうです。
しかし、栽培や加工に関する規制が非常に厳しいため、THC濃度の低いカンナビノイドは現在も単体で輸入されており、地場産業の妨げになっているのが現状です。
一方で、英国海峡に浮かぶガーンジー島、ジャージー島、マン島の3つの島では、最近、政府がライセンスを授与し、製薬会社以外の企業の栽培への参入を認めるなど、柔軟な対応を示しています。しかし、産業界、学術界、患者団体は、地元での栽培とTHC濃度をドイツレベルまで引き上げるため、さらに緩やかな規制を求め、積極的にロビー活動を展開しています。そして、この目標を推進するために、新たな連合が形成されています。
ドイツ:注目が集まる娯楽用大麻の合法化
冒頭でも触れたように、ドイツの連立政権は娯楽用大麻を合法化するための法案を年内にまとめると約束しています。新政府は、これを予定されている政策の一部として2021年12月に発表しました。合法化への期待は2022年5月、マルコ・ブシュマン法務大臣のツイートによってさらに高まっています。
ドイツ政府にとっては、新たな税金をもたらし、禁酒コストを削減することで、合計約50億ユーロという非常に有利なビジネスとなる可能性がある一方で、年間約400トンという推定需要は、世界第2位の市場規模になると言われています。
このため、Tillray、Aurora Cannabis、Curaleafなどの業界大手だけでなく、カナダやアメリカのベンチャーキャピタル(SnoopdogのVCであるCasaVerdeやNavy Capitalなど)も今回のCannabis Eurppaに参加しており、ドイツでの展開に関心を寄せている企業が多くみられました。
大麻産業界のイネーブラー
Cannabis Europaでは、大麻業界の繁栄に不可欠な材料、製品、サービスなどを供給するイネーブラーも非常に多く見られました。業界が成熟するにつれ、CBDというだけでは圧倒的な成功や存在感を残すのが難しくなっていますが、このようなイネーブラーはビジネスが安定的で持続可能である傾向にあります。アメリカやカナダから成熟したプレーヤーが参入している一方で、地元の新規参入者も見られました。今回の出展者の中でも特に、我々が注目するイネーブラー企業をカテゴリー別に紹介します。
- データプロバイダー
本イベントの主催者であるProhibition partnersは、EUの業界における主要なデータおよび市場レポートを提供 - B2Bのマーケットプレイス
– Cansativa : ドイツのB2Bマーケットプレイスで、バリューチェーン(栽培、抽出、生産、商品化など)の各段階を管理するプラットフォームを顧客に提供
– Prohibition Partners: イベント期間中に、競合マーケットプレイスAtalisを発表 - テストプラットフォームと装置
島津製作所:Merck & Agilentと並んで米国でトップクラスの地位を占めており、EUでもビジネスを展開中 - セキュリティ/サイバーセキュリティプロバイダー
Subrosa:医療用大麻分野にセキュリティの専門知識を提供 - 抽出装置
ExtraktLab:米国の抽出装置メーカーで、欧州にて事業拡大を検討中
大麻の栽培は南ヨーロッパやアフリカへ
ポルトガルは、大麻の主要な栽培国になることが約束されています。その理由は気候と有能な労働力、そしてヨーロッパにおける戦略的な立地だけでなく、その規制緩和も相まって、ポルトガルは栽培のために多大な投資を受けているからです。そして、ポルトガルはこれまでに、THC含有製品を含む大麻栽培と医薬品への加工に関するライセンスを8件発行しています。Cannabis Europaの主要スポンサーのひとつであるSomai Pharmaceuticalsは、ポルトガル・リスボン郊外に本社工場を開設したところです。
ポルトガルの他にも、イタリアは医療用や一般用医薬品用の大麻栽培においてはすでにかなりのシェアを占めており、ギリシャやスペインも市場の大半を占めると予想されていました。アフリカも栽培地としては有望で、南アフリカとウガンダの医療用大麻はすでにEUへ輸入されており、ジンバブエもこれに続く予定です。
ドイツやイギリスでの娯楽用大麻に関する規制緩和を受けて、ヨーロッパでの大麻産業は急成長し、今後アメリカに次ぐ大きな市場となることは間違いありません。日本でも、CBDの正しい活用と健全な市場育成に向けて、大麻取締法改正が検討されています。既に市場が成熟している北米ではなく、ヨーロッパの規制緩和に伴った今後数ヶ月、数年の間に起きる進展や動向を把握しておくことで、これから日本でも起きうるグリーンラッシュに備えることができるかもしれません。