NFTの知名度はこの数ヶ月で急速に広まり、実際にサービスが多数展開される状況になっています。日本においても、デジタルアート、ゲーム、アニメ、スポーツといった、すぐに収益を得られる可能性があるケースだけでなく、ふるさと納税にNFTを利用するケースや、地方創生に利用するケースが出てきています。
ソリューション提供事業者も積極的で、AmazonはAmazon Managed Blockchain、MicrosoftはAzure NFT Solution Acceleratorで本格的なNFT開発環境を提供しており、SalesforceがNFT製品を発表したりしています。もっと手軽には、ShopifyがECサイトと同様の仕組みでNFTを販売できるオプション*を発表しています。
Shopify×NFT:米国など一部の国限定で、執筆時点で日本では未対応
注意したいのは、NFTを用いたサービスを始める上では、上述した大きなソリューション会社を用いたり、多数のIT人材を採用して多額のコストをかける必要はなく、開示しているソリューションを組み合わせることにより、非常に簡単に立ち上げられる点です。それにより、事業者はNFTの本質を理解し、サービスの価値を高めることに集中し、サービス拡大に応じた体制強化ができるようになります。以下、実際に弊社がこれまで試行錯誤してNFTに取り組んできた事例と共にみていきましょう。
1. NFT発行に際する決め事
NFT作成時には、最低限以下を決めておく必要があります。
A.デジタルアート
B.使用する仮想通貨
C.初期の販売価格
D.クリエイター(初期発売者)への収益
A、B、Cに関しては、一般的な商品販売と同様ですが、DがNFTにとって特色があり、スマートコントラクトと呼ばれるものです。Dにより、初期の販売だけでなく、転売時にも収益がクリエイターへ自動的に渡ることになります。
2. 簡単なサービス開始方法:マーケットプレイスを利用
一番簡単な方法は、マーケットプレイスを用いることです。弊社も実験的に、世界最大規模の世界最大規模のNFTマーケットプレイスであるOpenseaでNFTを発行しています。発行するまでにかけたコストは、デザイナーの作業コスト(1日程度)と、エンジニアのサイト設定・作業コスト(1日程度)くらいで、素早く利用することができます。
Openseaでは上述のデジタルアートの登録、仮想通貨の選択、販売価格、クリエイターへの収益割合を簡単に設定できます。プログラミング知識は不要です。
たとえば上記のNFTは、仮想通貨(Blockchainとして表示されている箇所)としてPolygon*を用いており、クリエイターへの収益は販売価格の2.5%です。
NFTの仮想通貨としてEthereumがよく用いられるが、発行時や転売時の手数料(ガス代)が高く、高額な商材でないと収益が見込めない。今はより手数料の安い代替通貨を利用することが盛んになっており、Polygonもその一つである。
3. サービスを拡張・進化する
サービスを実際に運営すると、以下の様な要望が出てきます。
Openseaだけでなく、用途に応じて適切なマーケットプレイスを選びたい
Openseaの手数料は2.5%と高いので、もっと安い所を選びたい
複雑なスマートコントラクトを作りたい(販売者だけでなく貢献者にも還元したい、等)
自社サイトと連動したい(自社サイトで公開すると共にマーケットプレイスでも公開したい)
上記の場合、自らNFTを発行します。以下のツールが必要になります。
A. スマートコントラクトをプログラミングしてテストする環境
B. デジタルアートを保管するWeb3データストレージ
C. 自社サイト、マーケットプレイス、データストレージ等サービスを連携する開発環境
Aのスマートコントラクトは一度設定して公開すると、あとから直せません。そのためプログラミング、テスト、公開のプロセスで作業することが必要で、テストによって不具合をなくす工程が発生します。NFTのエコシステムを主導するEtheriumはこのために利用できるツールを多数揃えており、様々なテスト環境(Rinkeby, Ropsten, Goerli, Sepolia)を提供しています。テスト環境を利用することにより、バグのないスマートコントラクトを提供することができます。
Bのデータストレージに関しても、Web3を利用した改ざんできない、分散型のサービスが出てきております。例えばPinataは、Web3のIPFSプロトコル技術を用いて、安価なデータストレージサービスを提供しています。
Cの開発環境では、Web3の統合開発環境であるAlchemyを用いることにより実現可能です。Alchemyはブロックチェーン業界のAWSとも言われ、元サッカー日本代表の本田圭佑も出資しています。
以下、EISの考察です
- NFTは、中央集権型であるWeb2.0の世界から脱却し、分散型であるWeb3.0へ誘う強力なソリューションである。サービス開始・運営においては、少人数でサービスを作れるため、小回りが効き、工夫してサービスを展開することができる中小事業者こそ、新たなビジネスチャンスが拡がっている
- NFTの出現により、提供価値の本質が、アート・商品・建物・システム等のアセットから、商品そのものの価値、ストーリー、購買体験、参加するコミュニティの活性度といったものに変わりつつある。大規模で派手なサービスやイベントは目を惹くが、NFTの成功ケースは一つではなく、顧客が少なくても熱狂的なコミュニティを作れるとサービスを継続運営できる
- NFTはようやく一般向けに認知が高まってきたサービスであり、勝者はまだ決まっていない。GAFAに代表される大手事業者もあの手この手でWeb3.0に参入し、その資金力・発信力を生かしてプレゼンスを高めようとしているが、独占できるようなソリューションでもない。今の成功事例と言われているサービスも、先行しているため目立っているだけの場合も多い。小さく素早く展開し、試行錯誤してサービスを拡張していける組織が勝者に近づける