ゴールドラッシュならぬ、グリーンラッシュ。海外のトレンドに敏感な読者の皆さんなら一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。グリーンラッシュとは、北米やヨーロッパを中心とした大麻合法化によって加速する大麻ビジネスのことを指します。2020年の世界市場レポートでは、CBD市場は2020年に28億米ドル、2028年までの年間成長率は21.2%と評価されています。
日本もこのグリーンラッシュの波に乗ろうとしています。厚生労働省では昨年2021年の1月から半年間、「大麻等の薬物対策のあり方検討会」が計8回に渡って開催されました。一部では今年の春にも法改正されるのではという見解も出ており、今後メディアの注目の的になるでしょう。
グリーンラッシュの中心地、ここアメリカでは大麻の廃棄物が大きな問題になっており、アメリカの大麻産業は年間約1億5000万トンもの廃棄物を出していると言われています。大麻の栽培、製造、生産、流通、販売、実験室での試験や研究などの全てのプロセスにおいて大量の廃棄物が発生します。これらの多くは植物由来でバイオマス(動植物から生まれた再利用可能な資源)であるにも拘らず、何にも再利用されることなく埋立地に運ばれています。
日本の衣食住を支えていた大麻
日本では大麻取締法の影響によりドラッグの印象が強くなった大麻ですが、大麻はアサの一種で実は日本では古くから衣食住に使われており、非常に身近な存在でした。
衣:着物の布地、下駄の芯縄など
食:七味唐辛子の種子など
住:建設材料、畳経糸、漁網、荷縄、照明器具や壁紙など
このような無駄のない古来日本の利用方法を、大麻の廃棄物にも応用できるのではないでしょうか。
大麻業界におけるサステイナブルな動き
NIKEやH&Mなど世界の名だたるブランドとパートナーを組んでおり、大麻の廃棄物から採取した繊維を特殊な加工技術により、糸に紡ぐのに適した柔らかい繊維の束に精製しています。
<食>nutiva
大麻の廃棄物の活用方法として、不要となった種子の食用化が考えられています。実際にこの会社では大麻の種子から取れる食用油や大麻由来のプロテイン、そして松の実のようにそのまま食べられる大麻の種子を販売しています。
<住>Hempitecture
建築資材でもあるヘンプクリートを販売する会社。ヘンプクリートは大麻の実を石灰と水に混ぜて作られ、重さは通常のコンクリートの約8分の1しかありません。さらにこの会社ではヘンプウールと呼ばれる大麻由来の断熱材も販売しています。
衣食住の他にも大麻の廃棄物の用途は多様です。例えば、大麻廃棄に関するソリューションを提供するGAIACAはこれまで500万ポンド以上の大麻廃棄物を堆肥へ再利用しました。さらにバイオ燃料やバッテリーへの応用も、実用化に向けてイギリスやアメリカの大学で日々研究が進められています。
「グリーンラッシュ」に関するEISの考察
- 日本の伝統であった大麻産業の在り方は、グリーンラッシュで廃棄物の問題に直面する大麻ビジネス業界へのヒントとなるかもしれない
- 大麻ビジネスはまだ若い産業であり、乗り出している企業も利益を追求するのに精一杯で、廃棄物の再利用まで人的/金銭的投資が回らないケースが多いだろう
- しかし近年、サステイナビリティへの注目は急激に上がっており、サステイナビリティへの考慮に欠けている企業は消費者から見放されてしまうリスクが高い。従って、大麻ビジネスを扱う企業は廃棄物に関する検討が急がれる
- 一方で、大麻の廃棄物のアップサイクルには規制やインフラの整備が必須である。国を挙げての取り組みが必要になるだろう
参考文献