フランスでは、7月第一週末をもって、全国の小中高校が一斉に夏休みに入ります。と同時に、多くの子供たちは、Colonie de Vacances(コロニー・ドゥ・ヴァカンス)に参加します。文字通り訳すと「ヴァカンス(余暇)の植民地」となりますが、いわゆるサマー・キャンプです。表現の仕方が、いかにもフランス的ですね。
ご存知のとおり、フランス人にとって余暇(ヴァカンス)は非常に大切です。1960年代に余暇文明を提唱した社会学者:Joffre Dumazedierは、余暇は単なる娯楽や暇つぶしではない、人間が様々な社会的な関係の中で利害関係を超えた大きな自発性を萌芽させる機会であり、人類の文明にとって非常に重要な要素と主張しました。この考え方はフランスの社会に浸透し、労働政策・教育政策にも導入されて、同国は世界でも最もヴァカンスを重視する国となりました。
先に述べた、コロニー・ドゥ・ヴァカンスも、青少年にとって大切な教育の機会と見なされています。フランスの国民教育省は以下のように述べています。
ヴァカンスにおいて、慣れ親しんだ自宅から離れ、野外施設で過ごすことは、生活のリズムに変化をつけ、未知なる文化に精神を開く契機となる。青少年が、家族や学校から離れて生活をする体験は、人が生きるということを理解するのにきわめて重要である。端的にいえば、我が国の青少年集合施設は、民主主義の本質を身につける経験の場として、自立の獲得を促す参加の場とすることを目的としているのである。
フランスにおけるコロニーの多くは、小学生から高校性までを対象とし、行き先としてはブルターニュからボルドー、ビアリッツに至る大西洋岸、モンペリエやニース、コルシカなどの地中海沿岸、そしてアルプスやジュラ、ピレネーなどの山岳地域の自然豊かなリゾート地が多く、基本的に1週間過ごすことになります。7月の週末になると、パリやリヨンのTGVが発着するターミナル駅は、コロニーに向かう子供たちのグループで賑わいます。
日本にも「かわいい子には旅をさせよ」という格言がありますが、どれぐらいの子供たちが親元を離れて、サマーキャンプで1週間過ごすような体験に恵まれているでしょうか?これから日本の若者たちもグローバル社会・多様化する市場で活躍していくためには、当然語学力に加えて大学や職場で学ぶ専門知識や実務経験も必要ですが、それ以前に、幼少のころから未知なる文化に己の精神を開き、自立することを考える場を持つことも大切なのではないでしょうか?そんなことを想うパリの夏が始まりました。