このインサイトについて、さらに詳しく動画で解説しています(13:49)
新型コロナウイルスが流行して1年以上が経過しましたが、私たちの日常生活だけではなく人の死に際をも変わってしまったのではないでしょうか。家族が危篤状態であっても面会ができず、一つの場所に集って故人を偲ぶことも難しくなってしまいました。このような変化に伴い、エンディングビジネスのオンライン化が進んでいます。
2021年4月、遺族ケアアプリケーションを提供するEmpathyは立ち上げからわずか数ヶ月でGeneral CatalystとAlephが共同で主導するシードラウンドで約14億2千万円(US$13M)を調達しました。Empathyは、多岐に渡るフィンテックおよび消費者セクターのイノベーションに関わってきた2人の起業家であるRon GuraとYonatan Bergmanによって設立されました。人生で最も辛い瞬間である“家族の死“に直面している人たちの負担を軽減したいという思いで、このアプリケーションの提供に至っています。
テクノロジーでサポートする
遺族は悲しむ暇もなく、葬儀の手配、財産管理、給付金の請求など、様々な対応に迫られることが現状です。それらは実に540時間にも及ぶと言われています。遺族ケアアプリケーション:Empathyは、取るべきアクションを一覧化して詳細な情報を集約し、ステップバイステップで対応できるようにチェックリスト機能も用意しています。さらに、高度なデータセキュリティを備え、死亡証明書から電気・ガスなどの契約情報といった様々な重要書類をアップロードしアプリ内で情報を管理することができます。
Empathy(共感)でサポートする
サービス名の通り、Empathyは人間の温かさを兼ね備えています。例えば、遺族がとるべきアクションごとにオーディオでのガイダンスが用意されており、それらはリラックス効果があるBGMとともに、音声で対応方法を伝えてくれるものになっています。それに加え、ただ方法を列挙するのではなく、「自分のことを労って休んでくださいね」「辛い時は一人で抱え込まないで周りに助けを求めてくださいね」と労いの言葉が必ず入っているのです。
また、アプリ内に用意されているチャット機能では、必要書類への記入や自分が住んでいる地域の専門家を紹介してもらう、などのサポートをリアルタイムで依頼することができる他、眠れなくて困っている、といった精神的な内容にも親身に担当者が答えてくれるのです。
エンディングビジネスのオンライン化
今回紹介したEmpathyは、より多くの作業を代行できるように新たな機能を追加するとアナウンスしており、今後の拡大に目が離せません。遺族ケアのみならず、アメリカではLanternやCakeといったオンラインでの終活サービスも進んでおり、コロナ拡大前と比べてユーザー数も大幅に伸ばしていることから、オンライン化は今後も更に飛躍すると予想されます。
以下、EISの考察です
- 人の死に関わるエンディングビジネスは非常にセンシティブなトピックでありながらも、セラピー機能等、感情に訴えかけるような共感性が高いコンテンツを巧みに取り入れることで、オンライン化の拡大が予想される
- 家族の死は親戚・仕事仲間・友人と利害関係者が多岐に渡るため、遺族はストレートに自分の悩みを打ち明ける相手を探すことが難しい。そのような状況の中、チャット機能により利害関係なく相談できることはオンラインサービスならではの強みになりうる
- エンディングビジネスのみならず、オンラインサービス全般において、共感性とテクノロジーを融合させる必要がある
- 多死社会に突入する日本では、遺族ケアや終活のニーズも拡大すると予想される。加えて、親世代が寿命を迎える50代・60代のスマホ普及率はそれぞれ約9割・8割と高く、アプリやWebサービスの親和性は高いことが窺われる
- 州や宗教によって死後の手続きが異なるアメリカでも高齢化社会が不安視されており、それら故人の情報を登録してカスタマイズされるEmpathyは、負担が大きい遺族にとって画期的なツールとなりうる
参考文献