このインサイトについて、さらに詳しく動画で解説しています(14:51)
米国でD2C(Direct to Customer)サービスを手がける企業が、ヘッドレスコマースを利用することが増加しています。
ヘッドレスコマースとは?
「ヘッドレスコマース」とは、ECのシステムから顧客向けのユーザインタフェース(ヘッド)と、バックエンドの受注管理・在庫管理・倉庫管理・決済等のシステムを分離するシステム構造のことを指します。企業は消費者との接点を多様化すべく、自社ECサイト、モバイルアプリ、モバイルブラウザ、ショッピングモールのサイト、音声デバイスによる購入、店舗ディスプレイでの購入、SNSでの購買、広告からの購買と多岐に接点を持ちます。
これらの顧客接点のサイトを従来型のフロントエンドとバックエンドが密接に繋がっているシステムで管理・新規開発するためには、バックエンドのシステムの制約を受けてしまうため、開発コストが大きくかかり、開発スピードも上がらず、市場・顧客の変化について行くのが厳しい状況でした。それを解決するのがヘッドレスコマースです。
ヘッドレスコマースの技術・メリット
Shopifyが提供しているShopifyPlusを事例に説明します。Shopify Plusを用いることにより、受注・在庫・出荷管理をバックエンドで行い、マーケターは顧客接点である自社サイト、自社モバイルネイティブアプリ、自社モバイルブラウザアプリ(PWA)、店頭での販促・購買(タッチパネル端末等)、音声購買、といったそれぞれのUX/UI作成にフォーカスできます。Shopify PlusはバックエンドとフロントエンドをAPIで接続しており、新しいユーザインタフェースはAPIを利用することにより容易に開発できます。これにより、変化の激しい顧客接点の対応が柔軟に可能になります。
ヘッドレスコマースをサービス提供している企業
現在は大手のD2C事業者が、Adobe、Salesforce、SAP等の大手IT事業者のソリューションを用いてヘッドレスコマースを構築している事例が多いです。ただそれに対してShopifyやBigCommerceのような自社ECサイトを安価で構築できるプラットフォーマーも中小企業向けに展開しており、中小事業者でもマルチチャネルでECビジネスを回すことが可能になっています。
更にスタートアップの動きとして、Fabricが950万ドルのシード資金でヘッドレスプラットフォーム構築を発表(2020年10月)、Webscaleが26MドルのシリーズCを実施(2021年3月)、ChordがシリーズAで1,800万ドルを調達し、Yagunaを買収(2021年3月)等活性化してきています。
ヘッドレスコマースを導入した、成功事例
Canvas 1839は、大麻から抽出したカンナビジオール(CBD)を使ったクリームやローションを販売する企業です。CBDは大麻と異なり安全で依存性がない素材ですが、法規制が厳しく、現時点ではオンライン販売においてFacebook広告の制約や、eコマースプラットフォームでは顧客の支払手段が制限されてしまう等、サイトを構築する際に様々な制約を受けていました。そこで、バックエンドでヘッドレスコマースを採用し、フロントエンドは自ら構築することにより、UX/UIのリリースを迅速に行いつつ、バックエンドでリーズナブルなSaaSサービスを使用できることが可能になりました。
また、LARQは自己洗浄できるウォーターボトルの販売事業者です。事業の成長に合わせてグローバル展開を計画し、サイトを米国、EU、英国、カナダ等の国・地域別にカスタマイズする必要がありました。バックエンドにヘッドレスプラットフォームを採用し、フロントエンドを自分達で構築することにより、2か月でeコマースサイトをリリースし、リリース後3か月で収益が前年比400%増加、コンバージョン率80%増を達成しています。
以下、EISの考察です。
- コロナ禍の影響により、デジタルコマースが大きく成長しており、中小企業にとってもグローバル進出できる千載一遇のチャンス。
- 国毎のローカライゼーションは非常に重要。それ故に展開手法(システム・決済・物流・顧客サポートなど)を上手く設計しないと、コストが大きくかさむことになる。
- そうした中では、ヘッドレスコマースの仕組みのみならず、ビジネス設計の考え方を取り込んだ経営思考とその具体設計が不可欠になる。
参考文献