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GDPRやCCPAが施行され、その上で今年4月からアップル社のアプリ端末情報追跡制限の導入により、SNSアプリ上でのユーザー向けターゲティング広告の費用対効果が大幅に低下することになりました。Facebook、Instagram、Snapchat等のSNSアプリは今まで、ユーザーの閲覧や行動の履歴のデータを一方的に獲得して分析することで配信広告の効果を最大化していましたが、今後はそのデータを取得する際、ポップアップ画面を出してユーザーから許諾を取る(オプトイン)ことを義務付けられました。モバイル広告の専門家は、8割のユーザーがトラッキングを拒否すると予測しています。そうすると、今まで獲得していたユーザーの属性情報(性別、年齢、所在地等)を得られなくなり、ターゲットユーザーに絞ったプロモーションのメールを送信できなくなります。つまり、ある男性向け商材を購入してもらうために、男性1,000人に広告を表示する必要があった場合、利用者の性別が分からないため、同等の効果を得るためには2,000人を対象とする必要がある等、SNSアプリ広告のユーザー獲得単価が2倍以上になるという状況が発生します。
その結果、多くのフォロワーを持つインフルエンサーを通じた、口コミを通してユーザーの消費行動に影響を与える対話型マーケティング手法が注目されています。企業がユーザーに対して直接メッセージを発信する従来型のマスアプローチと比べ、インフルエンサーを通じたコミュニティアプローチが効果的だと考えられる理由は以下の通りです。
- ターゲティングしやすい: インフルエンサーのフォロワー(年代、性別、ジャンルなど)を対象とするため、ユーザーをターゲティングしやすい
- 共感力が高いメッセージ発信: ユーザー目線での情報発信が可能となり、広告臭が少なく、ユーザーの興味関心や共感を獲得しやすい
- 柔軟な報酬オプション: インフルエンサーへの報酬方法が金銭的報酬だけではなく、商品提供や商品開発コラボなど、様々な方法で取り組める
- バイラル効果の最大化: ユーザーに対して共感性の高い情報発信をすることにより、口コミとUGC(ユーザー生成コンテンツ)の獲得が期待できる
- PDCAによる施策改善: リーチ数、エンゲージメント率、サイト遷移数、製品購入数などのデータ取得と分析が可能になり、施策改善に取り組むことができる
インフルエンサーマーケティングを取り入れる際、「SNSプラットフォームの選定」、「起用するインフルエンサー」、「予算設定と投資対効果のモニタリング」が重要なポイントとなります。
【ポイント1】目的に最適なSNSプラットフォームの選定
- ターゲットとするユーザーに適したプラットフォームか?
⇨ 10〜50代にかけた幅広い年齢層はInstagramやYouTubeでブランド認知拡大、40〜50代と比較的高い年齢層はFacebookで実用的商材のPR、20代以下の若い層はTwitterやTikTokで爆発的な情報拡散など
- 商材のプロモーション、それとも商材を通じたエクスペリエンスのプロモーションを狙うのか?
⇨ 販売戦略に応じて、静止画と動画のコンテンツを巧みに使い分ける
- 目的はブランド認知向上か、それとも購買促進か?
⇨ブランドの認知を広めるフェーズと購買を促すフェースでは、適切なSNS、コンテンツ内容、インフルエンサーが異なるため、先ずはその指針を明確にする
【ポイント2】自社ブランドと親和性の高いインフルエンサーの起用
- 起用するインフルエンサーは自社のターゲット層をフォロワーに多く抱えているか?
⇨ 過去のPR投稿、コメント欄の評価、エンゲージメント内容などをチェック
- どの様なペースでの情報拡散を狙うのか?
⇨ メガインフルエンサー(100万人以上のフォロワー)を通じて爆発的な情報拡散を狙うか、マイクロインフルエンサー(数万人のフォロワー)を通じて短サイクルでPDCAを回して特定コミュニティにおける認知向上を狙うか
- 事業育成に取り組む上で適切なパートナーか?
⇨ プロモーション案策定、実行、フォローまで、個人の裁量で親身になって取り組むインフルエンサーとの出会いを見つける
【ポイント3】インフルエンサーにかける費用(予算)の算定と投資対効果のモニタリング
- より多くのユーザーへのリーチを狙うのか、それとも特定コミュニティにおけるエンゲージメントを狙うのか?
⇨ 先ずはSNSプラットフォームおよびユーザー毎のCPM(広告を1,000回表示した際の広告費。認知拡大やブランディング目的に有効)とCPC(クリック数に応じて発生する広告費。商品販売などコンバージョン向上目的に有効)単価を確認し、狙う効果やキャンペーン内容に応じて目標数値を定める。2020年の北米データによると、メガインフルエンサーとマイクロインフルエンサーでは、エンゲージメント率に以下違いがあった
- Instagram:メガインフルエンサーは1.21%、マイクロインフルエンサーは3.86%
- YouTube:メガインフルエンサーは0.37%、マイクロインフルエンサーは1.64%
- TikTok:メガインフルエンサーは5%、マイクロインフルエンサーは18%
- SNSプラットフォーム毎のインフルエンサーに払う平均CPMはいくらか?
⇨ 2020年の北米データによると、Instagramは$5-10、YouTubeは$10-25、TikTokは$10以上、SnapChatは$3-50、Facebookは$4-8
- インフルエンサーマーケティングの投資対効果をどうモニタリングするか?
⇨ 投資対効果は、単純に「収益÷総投資額」で算定。2019年に実施されたアンケートでは、回答企業は平均して5.2倍のリターンを得たと回答。様々な評価指標があるが、モニタリングKPIとして役立つのは以下の通り
- 認知拡大が目的:CPM(インプレッション単価)、自社ウェブサイトアクセス数、エンゲージメント率、メディア掲載数
- 販売促進が目的:CPC(クリック単価)、CTR(クリック率)、CPA(コンバージョン単価)
以下、EISの考察です。
- 個人情報保護の強化にともない、マスアプローチからインフルエンサーを通じた特定コミュニティへの対話型アプローチは、企業の今後の広告宣伝および販売促進活動の主軸となっていく
- その威力を理解する各種セレブや多くのフォロワー獲得に成功したSNS巧者によりインフルエンサーマーケティング市場は更に活性化し、様々なビジネスモデルが展開されていく
- その新たな流れをつかみ取るために、多くの企業は早急にSNSにおける自社プレゼンスを定量的かつ定性的に評価し、既存のマーケティング戦略を見直す必要がある
- この個人情報保護の法規制変更がもたらす新たなビジネストレンドにおける対応方法を早期に考案することにより、大きな事業機会を獲得できる可能性がある
<参考文献>