eMobilityに関する全4回の連載の最終回となる今回は、V2Gについて深く掘り下げ、既存のビジネスユースケースを紹介します。
このインサイトについて、さらに詳しく動画で解説しています(8:13)
V2Gとは?
V2G(Vehicle To Grid)とは、双方向型のEV充電器を通して自動車のバッテリーからグリッドへ電力を戻すことです。一方、一方向型のEV充電器を用いたスマート充電(V1Gとも呼ばれる)では、車両の充電時間を制御して一定時間の需要を抑えることができます。 V2Gは、さらに一歩進んで、エネルギーをグリッドに供給することができるのです。
V2Gのメリットとは?
以前の記事で述べたように、断続的な再生可能エネルギー(主に風力・太陽光)がグリッドに流れることで、様々な問題が発生しています。
- 需要供給のアンバランス。例えば、太陽光発電のピークは正午頃であるのに対し、需要のピークは主に夕方になります。この問題は、カリフォルニア州で深刻な問題となっており、需要が高い時期にはグリッドオペレーターが太陽光発電を抑制したり、停電を引き起こしたり対応しています。
- グリッドの周波数安定化。グリッドは特定の周波数で動いていますが(連載第3回:スマート充電を参照)、風力に代表される予測不可能な周波数で動く断続的なエネルギー源を取り入れると、グリッドの周波数が大きく乱れます。
V2Gは、これら2つの問題を解決し、さらにグリッドにエネルギーを供給することができます。V2Gとスマート充電を比較すると、特に周波数安定化における経済的効果が大きいことがわかります。スマート充電の場合、消費者側のメリットは、充電費用を含む自動車の所有にかかるトータルコストの削減ではないでしょうか。
V2G市場の準備は整っているのか?
現在、V2Gに関する多くのパイロットや研究プロジェクトがありますが、商業的な実装はほとんどありません。こちらのGoogleマップでご覧いただけます。なぜV2Gはまだ発展途上なのでしょうか?
- 充電インフラにはコストがかかり、規格もまだ確立されていないため
・コスト:現在、V2G充電器のコストはスマート充電器の5倍以上にも上る。
・標準化:現在、V2Gに対応している充電器は、Chademo社の充電器のみである。最初のCCS充電器は2022年に市場に出回る予定。
- 最大の経済価値は周波数特性の市場から生まれるはずだが、V2Gの拡大に伴って価格設定がどのように変化するか、需要が供給に追随するか、アンシラリー市場の経済性は不明であるため
- DSO(Distribution System Operatorの略語、配電系運用者を指す)やマイクログリッド(大規模発電所に頼らず地産地消型の電力系統)など、地域型の負荷分散に対する規則や規制が決まっていないため
- バッテリーの劣化コストを考慮する必要があるため。V2Gの運用に伴う余分な充放電サイクルにより、バッテリーの寿命が短くなります。将来的には、より優れたバッテリー技術と、規模の拡大による初期コストの削減により、劣化コストは削減される
- 行動データの問題。任意の時間と場所で利用可能な電力量を予測するためのモデルを構築する必要がある
- 路上にある車両数の問題。公共にある充電器からV2Gを実現するには路上の車両数が不足しており、車両数をもとにした電力量の予測が困難である
V2X(V2H、V2B、V2Fなど)とは?
V2HやV2Bは、よりシンプルなビジネスモデルです。
- 駐車先のビルや家に設置されている太陽エネルギーに対して直接電力を蓄えることができる
- 電気代が高い時に、車のバッテリーから家庭や施設に電力を供給することで、ピーク時の消費を抑えることができる
- また、停電時のバックアップ電源ともなり得る(最近のカリフォルニア州での計画停電を考えると、ディーゼル発電機への投資を防ぐことができるので、この価値は大きい)
V2Gイネーブラーの例:NUVVEと短期的な機会
NUVVEは、10年前にサンディエゴで設立されたスタートアップです。V2Gプロジェクトの初期段階から参加しており、その経験は多岐にわたります。NUVVEは、デンマークのParkerのパイロットの一部としての4年間の運用を含め、13以上のパイロットに参加しています。
NUVVEは、フランスの電力会社EDFと豊田通商の支援を受けています。充電インフラ、エネルギー管理、アグリゲーション(仮想発電所)の技術を、自動車メーカー、電力会社、充電ポイント事業者、フリート事業者(公共交通機関、物流、サービスなど)に提供しています。
短期的には、米国最大の大量輸送機関であるスクールバスに注力していきます。V2Gに適したユースケースである理由は以下です。
- スクールバスは一貫したルートを走行するのでエネルギー需要が把握できる
- スクールバスはほとんどの時間、駐車されていて使用されておらず、特に太陽が出るピークの時間帯(午前中の遅い時間や午後の早い時間など)には使用されていない
以下、EISの考察です
- V2Gは、NUVVEのスクールバスのような特定のユースケースではビジネス化が可能だが、個人やコミュニティのモビリティのための限定的なパイロットもいくつか存在する(例:UtrechtやJedlix)
- 世界的に普及させるには、インフラや規制などまだ大きなハードルが残り、経済性も依然不明瞭である
- しかし、再生可能エネルギーの普及により、まずは大規模なフリートから、そして将来的には公共充電など、有効なユースケースが出てくることは時間がかかるが間違いないだろう
- V2G業界に参入するか悩んでいるプレイヤーにとって、一方向性のスマート充電は、V2Gに移行する適切なタイミングを見計らうための、良いファーストステップとなるだろう
参考文献