このインサイトについて、さらに詳しく動画で解説しています(16:33)
先日、ヘルスケアアプリのNoomがSilver Lake がリードするシリーズFラウンドで 5 億 4000 万ドルを調達したことを発表しました。Noomはこれまでに米国、英国、カナダ、オーストラリア、アイルランド、ニュージーランドなど世界100 か国で累計 4,500 万ダウンロードされており、今年後半か来年初めには100億ドル近くでIPOするのではと言われています。今回Noomが過去最大の調達を成功させた背景には、コロナパンデミックに伴う人々の体重増加と、再び健康的な生活を取り戻したいという欲求が同社の業績を大きく伸ばしたことがあります。Techcrunchの記事によればパンデミック以降アメリカの成人の6割が体重増加しており、調査対象者の平均体重は+7キロと、コロナ太りは大きな社会問題になっています。また、医療費の高騰が続くアメリカではカリフォルニアなどの沿岸部を中心に予防、未病への意識が高まっていますし、ヘルスケアアプリによる健康改善が健康保険の対象になるなど、ヘルスケアアプリが浸透する素地があるのも特徴です。そのような状況下、Noomをはじめとするヘルスケアアプリに今後大きな注目が集まるのは必然かもしれません。
ヘルスケアアプリ成功の鍵を握るユーザーエンゲージメントの高め方
ヘルスケアアプリを使ったダイエットなどの健康改善成功の最大のポイントは継続性です。そして継続性を保つためにはユーザーのエンゲージメントを高める必要があります。アメリカおよび世界のヘルスケアアプリにはユーザーエンゲージメントを高める様々な工夫が凝らされており、それぞれ特徴的なサービスを提供しています。中でも、特に有効と考えられる手法は以下の3点です。
- ゲーミフィケーション
- 検査キットなど科学的根拠に基づくパーソナライズされたサービス
- デバイスを活用したデータ入力や健康増進活動の支援
それぞれ具体的な事例とともにご紹介します。
1. ゲーミフィケーション:SidekickHealth
スウェーデン発のSidekickHealthは行動経済学に基づくゲーミフィケーションを取り入れることで継続性を高めています。ユーザーはミッションと呼ばれる毎日の行動目標を達成すると綺麗な飲水を得ることができない地域の子供たちに綺麗な飲水を提供するための寄付をすることができ、頑張れば頑張るほど寄付できる水の量が増えるという達成感を味わうことができます。また、「子供たちに綺麗な飲水を寄付する」というリワードもポイントで、人は自分の利益につながることよりも他人の利益につながること(=社会的リワード)により強くコミットし継続性が上がるという行動経済学の理論に基づくリワード設定がなされているのが特徴です。
2. 検査キットなど科学的根拠に基づく、パーソナライズされたサービス:Vessel Health
サンディエゴにあるVessel Healthは薬品が塗布された検査シートとスマホカメラを用いて尿から11の栄養素(開発中含む)を検知・分析することで、学習コンテンツや計画、改善 データの可視化などパーソナライズされたコンテンツを提供するサービスです。特に、個人の栄養状態に合わせたパーソナルサプリメントの販売や、必要な栄養素を補うための食事計画から必要な食材をAmazonフレッシュを通じて簡単にオーダーできるサービスなど、検査データから行動に移しやすいユーザーエクスペリエンスになっているのも特徴です。検査シートは1枚10ドル程度と手頃な価格に設定されており、定期的に改善状況を把握することが可能です。
3. デバイスを活用したデータ入力や健康増進活動の支援:Klue
サンフランシスコを拠点とするKlueは1型糖尿病の患者向けのアプリで一般的なヘルスケアアプリとは位置付けが異なりますが、Apple Watchを活用した食事情報の記録とリアルタイムアドバイスが非常にユニークなソリューションです。Apple Watchの加速度センサーとジャイロセンサーによりユーザーが何かを食べたり飲んだりしているのを検知し、その記録をとります。また、検知した飲食のペースや量に基づきリアルタイムで指導を行います。これは「習慣の変化に関する指導はその習慣が発生しているときにしなければ意味がない」という行動科学の原理に基づくもので、これによりユーザーは自分の行動をより良い方へ改善することが容易になります。
以下、EISの考察です
- コロナパンデミックによる生活や健康の乱れを立て直すために今後、日々の生活を改善するヘルスケアアプリには大きな注目が集まる
- ヘルスケアアプリの領域はテクノロジーに裏付けされた革新的なサービスがどんどん誕生しているが、現時点では食事、運動、睡眠などそれぞれ得意な分野に注力している状況。今後買収などにより全ての分野をカバーするプレイヤーが出てくる可能性が高い
- ヘルスケアアプリを通じて日々の健康状態がデジタルで把握できるようになることでテレヘルス(遠隔医療)分野との連携も進んでくる