SIAL Paris 2022は、食品業界最大のショーケースで、今年は10月15日から19日までの5日間、パリ・ノール・ヴィルパント見本市会場にて開催されました。毎年、100カ国以上から7,000社以上の企業が、自社の革新的な食品・製品・機器を出展します。特に、農産物に関して、バリューチェーンのあらゆるレベルで多種多様な企業が参加しています。また、来訪者は、世界中の企業と交流し、最先端の食品トレンドに触れると同時に、食品業界の課題に対処するための新たなネットワークを築くことを目的としています。その規模は、「SIAL Parisに5日間出席することは、6ヶ月分の会議を開催するようなものだ。」と評されるほどで、世界中のバイヤーにとって重大なイベントだと言われています。
会場では、一流の科学者や専門家が、業界が直面する課題や今後のプレビューについて討論するイベントもあり、今年は、食品トレーサビリティ、品質、原材料の選択などが議題にあがりました。
今回は、SIAL Paris 2022のイベントの様子をお伝えするとともに、最新の食品トレンドについて紹介したいと思います。
植物由来のプラントベースフードへの関心
近年、フランスを含む多くの国で植物性食品への関心が高まっており、世界全体の市場規模は、2030年までに年平均成長率15.4%の成長が見込まれています。植物性食品は、果物、野菜、根、その他の植物の部位から作られるため、特に、ヴィーガン人口の多い欧州地域で人気があります。パンデミックによって健康意識が高まり、栄養価の高い食品の支出が増えたこともトレンドを後押しする要因となっています。
実際にフランスでも、年々植物性食品の消費量が増加しており、マメ科の野菜や大豆加工食品が人気です。日本人に親しみ深い豆腐も、スーパーマーケットで買えるほどフランスに浸透している食品の一つです。SIAL Paris 2022では、様々なプラントベース食品の展示がみられました。
フランス発のCocoritonは、穀物と豆類から作られた環境に優しいパティを提供しています。同社の食品は、5段階(A~E)の栄養スコアで最も高い評価を獲得しており、タンパク質と繊維、そしてオメガ3脂肪酸が豊富で健康的です。さらに同社は、フランスの農場で栽培された素材を使用することで、地産地消への関心が強いフランス国民の期待にも応えています。
スイスのフードテックスタートアップであるPlantedは、添加物を含まず、動物の味と食感を再現した植物ベースの鶏の胸肉を発表しました。同社の食品は、独自のバイオテクノロジーにより「ジューシーで柔らかい」肉となっており、星付きシェフであるTim Raueのレストランでも使用されています。また、製造過程で温室効果ガス排出量を74%削減することに成功し、環境保護にも取り組んでいます。
すでに大手の競合会社も多いプラントベースフード業界ですが、品質の向上はもちろんのこと地産地消や環境保護などの新たな付加価値を提供することで、従来品との差別化が図っています。
環境に配慮した消費行動
SIAL Paris 2022では、環境保護、持続可能な社会実現に目を向けた展示も多くありました。環境に配慮した消費というと、日本ではあまり馴染みのない考え方かもしれません。American Expressの調査によると、日本は他国と比較しても目的意識をもって食品を購入する人の割合は少ない傾向にあります。しかしながら、欧州地域を中心とした環境負荷の少ない食品を嗜好するトレンドは、世界的な広まりを見せつつあります。
例えば、SIAL Paris 2022にてオーストラリア政府は、国独自の食品・飲料を出展すると同時に、環境保護の取り組みを示しました。第一に、オーストラリアの農業技術部門は、二酸化炭素排出量の削減に懸命に取り組んでいます。具体的には、Austral Fisheries(水産会社)やWakefield Wines(ワイン会社)などは、諸外国の企業に先んじて、カーボンニュートラルを達成しました。また、Clean Seas Sustainable Seafood(テクノロジー企業)はSensoryFreshという魚を凍結する技術を開発し、製品の味と食感を維持しながらも環境に優しい輸送方法を実現しました。
第二に、包装の面での廃棄物削減です。同国の食品産業は、2025年までに包装の100%再利用、リサイクル、または堆肥化を目指しています。例えば、ワイン業者は、ボトルの再利用や、リサイクルが容易な缶での包装を進め、政府の取り組みを支援しています。
日本が世界に発信する食品
SIAL Paris 2022には、韓国、マレーシア、タイ、ベトナムなどのアジア諸外国はもちろんのこと、日本からの団体も出展しており数多くの来訪者で賑わっていました。日本の食品はクオリティや安全性が高く健康的な食品も多いことから、海外から多くの関心を集めています。また、洗練されたパッケージもポイントです。欧州寄りのモダンなパッケージだけでなく、漢字やカタカナを前面に出した和風パッケージも人気があります。
JETROによって企画された日本のブースには、秋田県、鹿児島県、福井県などが参加しました。今回は、その中から、我々が注目した鹿児島スタンドについて紹介します。鹿児島県は、近年、ヨーロッパでの文化振興を強化し、ルーブル美術館で独自の和食イベントを開催するなど、県知事主導で食の日仏交流を活発化させています。また、鹿児島県の農作物や畜産物は、クオリティと安全性の観点で、国内外から高い評価を受けています。実際に、鹿児島スタンドでは、和牛やブリ、黒酢、鰤、黒糖焼酎、米粉、鰹節、お茶などが展示され、試食・試飲を通して、その魅力を訴えていました。来訪者は、米粉を使ったパウンドケーキを試食したり、お茶をその場でお茶アンバサダーの入れ立てを試飲したりと、鹿児島県産の食品を存分に堪能していました。
アジアブースは大盛況で、多くの来場者の方に、話を聞いていただき試食・試飲をしていただきました。飲む黒酢(青梅、苺、林檎)の試飲は、最初みなさんかなり酸っぱいと構えていましたが、天然シロップのように飲みやすく美味しいので驚かれていました。(鹿児島スタンドで働かれていた方の声)
SIAL Parisには、ここで紹介したように世界から多くの企業が出展し、食品産業において革新的なビジネスの場となっています。今年のイベントでは、特に、植物性食品やオーガニック食品、環境へ配慮した食品などが注目を集めていました。こうしたトレンドは日本にも徐々に浸透しつつありますが、日本の食品産業が国内だけでなく国外の需要も取り込み更なる発展を遂げる上で、注視すべきトピックであると考えます。
また、日本の食は食品そのものにも魅力がありますが、食文化全体も広める価値があると思います。例えば、お弁当という食事の方法です。フランスでは既に注目を集めつつありますが、バランスのとれた健康的な食事、容器の無駄な消費を抑えるという点で次の食品トレンドになりうる存在だと感じています。他には、食事に季節感を取り入れる習慣です。旬の食材を使用したり、年中行事に関連した料理を食したりと、食を通して自国の文化を体感することも日本ならではだと思います。