アメリカのEコマース市場はコロナ禍の2020年に36%、21年に18%成長を記録し、今年初めて流通総額が1兆ドル(140兆円)を突破する見通しです。
アメリカのEコマースを牽引するのはもちろん王者Amazonですが、近年は2番手の顔ぶれが変わってきています。これまで2位だったeBayが4位に転落し、代わってShopifyとWalmartが急成長。シェア的にはまだまだAmazonには及びませんが、ShopifyとWalmartもそれぞれ独自の強みを生かして猛追し、三つ巴の展開になっています。
その3社がしのぎを削るのが翌日配送とサステナビリティという2つのテーマです。
翌日配送
翌日配送が当たり前の日本とは異なり、国土が広く物流網も日本ほど細かく敷けていなかったアメリカにおいて従来は注文から配達まで数日〜1週間かかるのは当たり前でした。しかしAmazonがPrime会員向けに2 Day Deliveryを標準提供するようになり、アメリカの消費者の配送納期に対する期待値は「注文の翌々日」というのが定着しつつあります。Statistaの統計では、7割の人が翌々日配送以上のスピードを求めています。この流れを受けてAmazon以外のサイトでの購入に対しても同様のサービスを実現すべく、ShipBobなどの新興フルフィルメント企業もクライアント企業に対し全米での翌々日配送を提供しています。配送納期短縮への圧力はコロナ禍にさらに加速し、今では約3割の人が翌日配送、または当日配送を期待しています。
この流れを生かして攻勢をかけているのがWalmartです。同社は出遅れたEコマースにおいてAmazonに対抗すべく、全米4,700の店舗網を武器に翌日配送による競争を仕掛けています。そもそも、同社の店舗は消費者が車で買い物に訪れることができるところにあり、短納期デリバリーの拠点として非常に優れています。また、同社はデリバリーのギグワーカー確保にも積極的で、先月、ドライバーのギグエコノミープラットフォームDelivery Driversを買収しました。両者が買収前から共同で運営しているWalmart向けのギグドライバープラットフォームSpark Driverは数千人のギグドライバーを抱えています。Amazonもこれに対抗し2019年から翌日配送を拡大しており、2社による翌日配送をめぐる競走は今後激化していくと思われます。
サステイナビリティ
もうひとつの競争軸になっているのがサステイナビリティへの取り組みです。Eコマースは輸送と梱包によって大量のCO2を排出します。具体的には、2030年にはラストマイル輸送時のCO2排出が30%増加すると試算されていたり、Amazonが2019年に排出したパッケージは70億個と、どちらも無視できない数字です。これに対しAmazonは2020年6月に20億ドル(約2,800億円)の投資プログラム「Climate Pledge Fund(気候変動対策に関する誓約のための基金)」を設立し、また企業として2025年に100%再生可能エネルギーによるオペレーションを実現、2040年にネットゼロカーボンを実現する「Shipment Zero」プロジェクトを推進中です。
一方Shopifyはより消費者に近いところでサステイナビリティに対する取り組みを強化しています。同社は2021年3月、一企業として史上最大(当時)となる15,000トンのカーボンクレジットを購入し、消費者および販売者に対して商品配送時のCO2排出をオフセットするプログラムを提供しています。消費者向けプログラムの「Shop」では同社の提供するShop Payを介した注文に対してShopify自身が輸送にかかるCO2のカーボンオフセットを実施します。この機能により、同社はサステイナビリティに関心の高い消費者を自社アプリおよび決済手段に誘導するという戦略的側面も垣間見えます。また、販売者向けプログラム「Offset」では、売主が商品の配送において排出されるCO2をオフセットできます。これにより企業は環境に配慮した売り手であることを消費者にアピールすることができます。
以下、EISの考察です
- アメリカのEコマースは納期と環境に対する消費者の高まる要求に応える形で日々進化を続けており、今後この動きは加速の一途をたどる
- 昨今D2Cでアメリカで存在感を発揮している日本企業が増えてきている。これまで日本企業にとって最大の課題であった販路の開拓がEコマースの拡大により突破できる壁になりつつあることが要因。一方で、どのプラットフォームで販売するにしろ、最低限の配送品質としての翌々日配送(できれば翌日配送)への対応と、環境に配慮したブランドアピールの取り組みはアメリカでの販売拡大における必須条件。両方にとって重要になる物流パートナーの選定は特に大切になってくる