エクスペリエンス・エコノミー(経験経済)という言葉が初めて紹介されたのは、1998年7月。ハーバード・ビジネス・レビューの論文で、著者のB. Joseph Pine II氏とJames H. Gilmore氏は、経験経済は農耕経済、産業経済、サービス経済に続く、経済の最新モードであると説明します。
経験経済とは、高品質なモノや満足度の高いサービスを顧客に提供するだけでなく、顧客にとって記憶に残るエクスペリエンス(経験や体験)を経済価値として提供し、ビジネスを行うことを言います。
世界中で広まった新型コロナウイルスのパンデミックにより、リアル店舗や対面型イベントでの事業活動は停止しましたが、ワクチン普及で経済正常化に向かう北米市場においては、経験経済を事業の軸として競合他社との差別化や自社ブランド強化に取り組む企業が増えています。
経験経済での成功企業として、Starbucks、Airbnb、Nike、The Home Depotなどがあげられますが、我々が注目するのは、2018年12月にニューヨーク市マンハッタンの五番街に1店舗目をオープンした「CAMP(キャンプ)」という玩具店です。
目次
エクスペリエンス・エコノミー最前線:CAMPの特徴
- ニューヨーク州、マサチューセッツチュ州、カリフォルニア州、テキサス州などに合計9店舗、体験型ショップ「リテールテイメント」を展開。リテールテイメントとは、小売(リテール)と娯楽(エンターテイメント)を融合させた用語で、実店舗での購買体験にエンターテイメント要素を取り入れた概念
- CAMPの店舗の表の姿は、そこまで大きくないスペースの普通のおもちゃ屋さん。だが、部屋の奥の秘密の扉を開けると、その先には店舗スペースの数倍あるテーマパークのような空間が広がる
- 日替わり、週替わりで様々なイベントが行われていて、おもちゃの品揃えも様々。子供だけでなく、大人も十分に楽しめるコンセプトになっている
- パンデミック発生後は、速やかに実店舗のビジネスをデジタルおよびEコマースで補完することに取り組み、世界初の子供向け電子商取引サイト「Present Shop」を立ち上げた(現在閉鎖中)
- 継続的に実店舗とオンライン上で様々な施策を打ち出し、あらゆる年齢の子供が楽しめる、他にはない没入型の小売体験を作り出している
以下、EISの考察です
- 消費者は今後、実店舗や対面型イベントなどの物理的な世界、Eコマース、SNS、メタバースなどのオンラインや仮想空間での世界を問わず、没入感のある体験を求める
- デジタル社会で育ち、モノよりもコトを優先し、コミュニティを求めるミレニアル世代やZ世代が消費の主役となると、その傾向は加速する
- 元来、没入体験の提供は日本人が得意とすること。日本が誇る「おもてなしの心」、かつては活気に溢れていた商店街、デパ地下、そして体験型工場見学などには多くのヒントが潜在する
- 私達日系企業には今後、顧客が求める体験、最新テクノロジーが可能とする機能、自社ブランドストーリーを見直し、日本型「おもてなし没入体験」を開発することが求められる