日本で「万引き」と聞くと、ポケットや鞄に食料品などをこっそりと忍ばせる様子を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。ここアメリカでは、万引きや強盗も驚くほどに豪快です。酒・日用品から電化製品といった高額商品をショッピングカートいっぱいに詰めて、大胆にセキュリティを押し退けて逃げていく人もいれば、パンデミック以降は20〜50人のグループが一斉に小売店を襲う組織的小売強盗犯罪が全米で広がっています。
全米小売業協会(NRF)が今年9月に発表した調査によると、2022年の小売店における盗難被害額は、前年の939億ドルから19%増の1,121億ドルに膨れ上がっています。インフレが加速する中、このような窃盗犯のコストを相殺するために小売店ではさらなる値上げを強いられ、消費者への負担は重くなる一方です。
このような深刻な事態を踏まえ、Walmart、Target、Macys、CVSといった大手小売業者のビックプレイヤーがIT企業と協力し、AIを搭載した高度監視システムを開発・導入し盗難・強盗防止に共同で取り組む決意を今年7月に表明しました。
電子物品監視(EAS)システム、RFID(電子タグ)、またセンサーやアラームを使用し、商品が勝手に動かされたり、商品が取り除かれたりすると作動する機能を搭載したスマート陳列ケースなどは既に存在しますが、前述の通り残念ながら万引きは大胆なため、有効的ではないケースもあります。 そこで、ベイエリアに拠点を置くカスタム自動販売機製造業者DMVIが開発しているカスタム自動販売機が、小売店の盗難対策として注目されています。
- 内蔵監視カメラ: 自販機に内蔵されたカメラは抑止力として機能するだけでなく、盗難の際には証拠となる
- いたずら検知センサー: 不正な開封や改ざんを検知するセンサーが搭載されており、異常な動きに反応してアラームやアラートを発する
- 安全なロック機能: 現金や商品コンパートメントへの不正アクセスを防ぐためのロック機能を搭載
- 遠隔監視と警告:不審な動きや改ざん未遂があれば、オペレーターやセキュリティ担当者に即座に警告を発し、 オペレーターが遠隔監視できるようにもなっている
- データ分析と機械学習:データ分析と機械学習アルゴリズムを使用して、不審な行動のパターンを検出できる
用途に応じては防弾ガラスを使用したカスタム自動販売機も生産可能とのこと。この盗難防止用の自動販売機 / スマート陳列棚が搭載されれば、店員さんにわざわざ声をかける手間が省けショッピング・エクスペリエンスが向上されるのはもちろん、業務の効率化が進み働き手の負荷も減り、盗難防止に加えた導入メリットも多そうです。既にアメリカでは商品棚に鍵がかけられているドラッグストアや量販店も多いですが、このようなAI搭載自動販売機が商品陳列棚に取って変わる日も近いのかもしれません。
以下、EISの考察です。
- AI先進技術を採用したセキュリティ対策を優先する小売企業は、顧客と資産を保護するというコミットメントを示し、このような安全へのこだわりは店舗のブランドイメージや評判にプラスの影響を与えるだろう
- 顔認証や監視カメラなどプライバシーの侵害や侵襲的な技術もあるため、買い物客がセキュリティレベルの向上に伴ったリスクを感じないようにする工夫も必要である
- 日本は自販機大国であるが、AIを搭載しセキュリティ面に強みを持たせた自販機はまだ見受けられない。既存の技術と知見を応用し開発を進めれば、自販機の海外向け輸出需要が大幅に上がる可能性がある