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バイオ炭は、果たして拡張性のある炭素隔離技術なのか

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IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、2050年までに温室効果ガス(特にCO2)の排出をゼロにすることを提言しています。もちろん、排出量の大幅な削減が最優先ですが、現在の人間活動のスピードではCO2を地中に貯留しておくことが必要だというのが、IEA(国際エネルギー機関)やIPCCの専門家の共通認識となっています。そのための有望な、しかし地道なソリューションのひとつがバイオ炭です。

目次

バイオ炭とは

バイオ炭は、バイオマス残渣の熱分解によって生成される植物由来の炭で、炭素貯蔵の可能性があり多くの用途があります。バイオマスに含まれる炭素の一部を固定化するだけでなく、炭素吸収源として機能し続けるような使い方をすれば、長期的に炭素を保持することも可能です。

photo credit: carbo culture

バイオ炭は、再生可能エネルギーや熱生成の副産物として、また農業における土壌改良の解決策として何世紀にもわたって使用されてきました。従来、農家は以下のようなシンプルなデザインのキルン(回転式の窯)を使ってバイオ炭を製造してきました。

バイオ炭用の小規模キルン / photo credit: Biochar.info

しかし、キルンの設計が大幅に改良され、生産性が向上すると共に、熱分解で発生するガスを回収して燃料(合成ガスや油)や農薬(木酢液)として利用できるようになりました。

バイオ炭の製造工程

なぜ今、バイオ炭なのか?

これまで、バイオ炭は生産コストが見合わなかったため製造されてきませんでした。しかし現在、炭素クレジット市場の盛り上がりと発展がこの状況を変えつつあります。バイオ炭は、エネルギー生産(熱、合成燃料)、農業支援(肥料、保水、農薬)の機能を超えて、前述のように数世紀にわたって炭素を捕捉し、その生産を通じて炭素クレジットを市場に出すことができる優れたソリューションです。

現在、バイオ炭の生産による収入源は下記の3つがあります。

  1. 農業の土壌改良のための飼料としてのバイオ炭
  2. 熱、水素を含む合成燃料、ガスからのエネルギー
  3. 炭素クレジット 

バイオ炭が農業にもたらすメリットとは?

バイオ炭の多孔性と微細空洞構造によって、水と養分をよりよく保持し土壌の微生物活性を高めることができます。そのため、土壌の浸出を制限し、植物の水分不足や肥料の必要性を軽減し、より肥えた土壌を維持することができるのです。土壌中のバイオ炭の安定性は数百年にも及びます。このようにバイオ炭の使用は、土壌の状態を改善し、培養物の生産量を増加させることを可能にします。バイオ炭に使用されるバイオマスは、通常、既存の農業バリューチェーン(葉、茎、果実のさや、バガスなど)や林業(おがくず、切り落としなど)の残渣が使われています。

ガーナでバイオ炭製造に使用されたカカオ豆の皮 / photo credit: FAO

このようにバイオ炭は、地面に埋めて収穫量を向上させるために農家向けに販売することができます。

創エネルギーの効率は?

熱分解による再生可能エネルギー生産の経済性は、大規模な生産に必要な炭素クレジットを必要としないため、あまり意味がありません。しかし、トウモロコシの穂軸や木材などの作物残渣を利用したバイオ炭プラントは、ディーゼル発電機よりも費用対効果の高い電気供給源となります。

オレンジの線で示された下図のグラフのように、ディーゼルを使った場合の発電コストは、2020年にディーゼルが1リットルあたり1.37ドルで、最近の価格では2ドル/KWhに近づいています。10kWのプラントでは、トウモロコシの穂軸の燃焼による発電コストは約85セント、100kWのプラントでは約35セントまで下がります。発電規模は課題になりますが、10kWでも発電機の代替としてこのようなプラントを開発するための正味現在価値の高いプロジェクトに資金を提供する余地があります。

バイオマスの熱分解による発電コスト / photo credit: FAO

バイオ炭によるカーボンクレジットは大きな収入源になるのか?

この分野の代表的な新興企業であるCarbonLoopによると、品質や炭素含有量にもよるが、1トンのバイオ炭で2.5〜3トンのCO2を吸収することができるといいます。このクレジットは、主にボランタリー市場で炭素1トンあたり150〜200ドルで取引されています。すなわち、1トンのバイオマスはエネルギーと飼料からの収入に加えて、375〜680ドルの炭素クレジットを生み出すことができるのです。

バイオ炭を普及させるための課題

1. 残渣の利用可能性と使用前の必要条件

  • 残渣は農家で家畜の飼料や家庭での調理用燃料として使用されることが多く、バイオ炭の生産に利用できる量が減少している
  • また、ほとんどの残渣は畑に放置されているため、熱分解の前にキルンまで運搬する必要があり、経済性に悪影響を及ぼしている
  • 作物から出る残渣は、エネルギー生産能力だけでなく、その隔離能力も様々である
  • さらに、これらの残渣は水分を含んでいるため、飼料として利用するためには熱分解の前に乾燥させる必要がある場合が多い

FAO(国際連合食糧農業機関)のバイオ炭の評価報告書から抜粋した下記のグラフは、様々な作物のポテンシャルを示唆しています。

コートジボワールにおける各種作物のバイオ炭の可能性 / photo credit: FAO

2. カーボンクレジット認証のためのバイオ炭製造の一貫性

カーボンクレジットを正確に認証し販売するためには、バイオ炭の含有量を一定にする必要があリます。バイオ廃棄物を扱う場合、一貫性は必ずしも重要ではなく、それを確保するために農家の教育がより必要になってきます。さもなければ、認証にかかる経済的、運用的なコストが障害になりかねません。

3. 電気と合成ガスまたはオイルを生産するための手頃で柔軟な技術

バイオ炭の規模を拡大するためには、飼料、エネルギー、炭素クレジットという3つの収入源が必須です。しかし、潜在的なエネルギーを最大限に活用するための低コスト技術は、新興国では高価であり導入することができないのが現状です。

スタートアップの課題に対する取り組み

様々なスタートアップが、装置・ターンキーソリューションといったバイオ炭を新興国で普及させるためのソリューションを開発しています。例えば、バイオ炭を生産するコスト効率の良い方法(TAKACHARHIVE)、バイオ炭の品質を向上させて市場性を高める(NetZeroCARBONLOOP)、炭素クレジットが収入源になる(puro-earthCarbonFuture)、など。

これらの新興企業がバイオ炭の普及のために行っている取り組みは、世界レベル(FAO、国連、ワールドバンクなど)、地域レベル(EU、ADBなど)、国レベル(政府、銀行)の様々な融資機関によってサポートされています。

近年計画された新興国におけるプロジェクトや投資

  • バイオ炭の領域においてスタートアップ企業の代表格であるNetZeroは、各国で積極的な活動を展開している
    • 第一弾の大規模バイオ炭製造プラントがカメルーンに設置された。カメルーン最大のコーヒー加工工場であるSynergie Nord Sud(SNS)に隣接し、コーヒーの殻を飼料として利用する。この発表を受けて、COP26の期間中、カメルーンはネットゼロと生産規模の拡大に向けた覚書を締結した。カメルーンは、世界で初めて工業用バイオ炭の生産を気候変動と持続可能な開発戦略に組み込んだ国である
    • また、同社は今年初め、ブラジルのミナス・ジェライス州で初のバイオ炭製造プラントを立ち上げた。コーヒーメーカーと協力し、コーヒーの殻を使用するこの工場は、年間4,000トンの生産能力を達成する予定で、これはNetZeroのカメルーン工場の2倍の生産量となる。
  • EUが資金提供するBIO4Africaプロジェクトは、ウガンダを含むアフリカの数カ国にバイオベース技術を提供してきた。これは、アフリカの農民や地域社会がバイオ炭ベースの製品を生産し、新しいビジネスを展開する機会につながる
  • さらに最近、CarbonFutureはソーシャルベンチャーBiochar Lifeとの提携を発表し、マラウイ、ケニア、タイの様々なプロジェクトからそのバイオ炭ベースの炭素クレジットを購入することを発表した

以下、EISの考察です

  • バイオ炭は明らかに可能性を秘めてるが、排出抑制のために必要なこのソリューションの可能性を完全に引き出すにはまだ程遠いのが現状である
  • バイオ炭の開発には炭素クレジットの導入が必要であり、その炭素クレジットの価格が特にEUでは上昇しているが、アメリカや中国など多くの地域ではまだ非常に低い
  • アフリカの既存のプロジェクト(例:NetZeroのプラント)は大規模であり、小規模農業に大きく依存している発展途上国の農業(アフリカでは70%)にはそぐわない。このような状況とのギャップを埋めるためには、さらなる技術の開発と適応が必要である。
  • しかし、技術の向上と炭素排出規制の強化により、バイオ炭のプラントは世界的に普及し、食糧安全保障、炭素隔離、気候変動の緩和だけでなく、グリーン水素製造の開発にも貢献することが期待される

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