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深刻なプラスチック問題に挑む、米国美容業界のパッケージ変遷

昨今サステイナビリティやSDGsという言葉が浸透し、企業・個人共に環境保護への関心がこれまでに無いほど高まってきています。特にプラスチックの海洋汚染やゴミ問題は深刻で、このままでは海へのプラスチック流出量が2050年までに魚類の全生物量とされる8億トンをを上回ると、World Economic Forumが警鐘を鳴らしています。それでもなお、立ち止まって周りを見渡すと、我々の生活はまだまだプラスチックに依存していることに気付かされます。

あらゆる分野で先進的な取り組みが行われているカリフォルニア州では、今年6月に使い捨てプラスチック規制新法である上院法案54が施行されました。この法案では、2032年までに州内のすべての梱包材をリサイクル可能または堆肥化可能とし、10年間でプラスチック梱包材を25%削減、そしてすべての使い捨てプラスチック梱包材を以下のように段階的にリサイクルすることを義務付けました。

  • 2028年1月1日以降、少なくとも30%のプラスチック包装材をリサイクル
  • 2030年1月1日以降、少なくとも40%のプラスチック包装材をリサイクル
  • 2032年1月1日以降、65%以上のプラスチック包装材をリサイクル

この法案制定によってカリフォルニアの事業者や生産者は、あらゆる側面で脱プラスチックに向けた対策を講じざるを得なくなりました。2020年の12月に立案され約1年半で法制化が進んだこのプラスチック規制の動きは、カリフォルニア州だけに留まらず今後アメリカ全土に広がっていくことが予想されます。

今回は、毎年1,200億個以上のプラスチックを主とする使い捨てパッケージが生み出されていると言われる美容業界に特化した、様々なブランド・企業のプラスチック削減にまつわる取り組みを紹介していきます。

目次

美容業界で浸透しつつある回収制度や詰め替えオプション

偶然にも前述の法案が可決された去る6月に、世界中で大人気のセレブ2人がスキンケアブランドを立ち上げ話題になりました。

即完売!ヘイリー・ビーバーのこだわりが詰まった:rhode skin

The making of rhode

人気トップモデルのヘイリー・ビーバーが、以前から噂されていたスキンケアブランド: rhode skinを遂にローンチしました。彼女自身が敏感肌ということもあり、オーガニック、グルテンフリー、ヴィーガンといったクリーンな原料を採用し、スキンタイプや年齢に関わらず誰でも安心して使えるスキンケアラインをプロデュースしています。そして驚きなのは、現時点で商品は全て30ドル以下で購入できるということ。高機能で肌に優しいスキンケアを消費者に長く愛用してもらいたいというヘイリーの想いが、その手頃な価格に反映されています。

そして彼女のこだわりは、ブランドの礎となる商品の質はもちろん、パッケージや経営理念にも色濃く見られます。

パッケージには、消費者が製品を使用した後に回収された素材をリサイクルした再生材料である、PCR(ポスト・コンシューマー・リサイクル)原料を使用しています。そして、各商品ページには化粧箱、チューブ、キャップといったパーツごとに、どんなリサイクル素材が実際に使用されているのか明記されています。

また、ブランド側が前払いした配送ラベルを使って、使用後の空き瓶やパッケージを3つ以上まとめて返送すると、ブランドが責任を持ってパッケージをリサイクルするとも明記されています。前述の法案にも準拠するこの取り組みは、現在消費者レベルで回収されているプラスチックのほとんどがリサイクルされていないという課題に対し、企業が代わりに対策を講じている好例と言えます。

さらに、配送には12回まで再利用できるBooxが手がける配送箱を使用し、プチプチなどの緩衝材の使用や過剰包装はしていないと公言しています。rhodeの商品を受け取った消費者は指定された回収場所に配送箱を持っていき、回収された配送箱はメンテナンスをされてブランドに返却される仕組みになっています。

キム・カーダシアンが手がける新スキンケアブランド:SKKN BY KIM

リアリティ番組のパーソナリティとして一躍有名になったキム・カーダシアンは、今や起業家としても名高く一目を置かれています。そんな彼女がシェイプウェアブランド SKIMS に続き、開発に3年の歳月をかけたスキンケアブランドのSKKN BY KIMを公表しました。美容マニアの彼女が信頼する、セレブ御用達のエステティシャン:ジョアンナ・チェコとタッグを組んで話題となりました。クルエルティフリー(動物実験を行っていない)、グルテンフリー、ヴィーガンに加えて科学的根拠に基づいたクリーンな処方を採用しているため、アンチエイジングといった効能が期待できるそうです。

「バスルームにインテリアとしても、ズラッと並べておきたくなるような視覚的にも美しいスキンケアブランドを作りたかった」とビデオインタビューで述べているこだわりのパッケージは、全て詰め替えができるようになっています。

デザインボトルの詰め替えパッケージは、rhode同様に50%がPCR原料から作られており、ポンプを除いて100%リサイクル可能な素材でできています。そして配送時に使われる梱包材も、クラフトバッグは100%堆肥化可能、卵殻パルプの梱包材もメタルといった一部のパーツを除けばリサイクルができるように設計されています。

image source: The Sun

カリフォルニアのローカルコスメショップで見られた脱プラへの取り組み

Beautycounter

クリーンビューティD2Cブランドの代表格であるBeauty Counterは、去年ライブストリーミングスタジオ兼店舗をLAにオープンしました。同社はEnvironmental Working Groupの消費財検証プログラム「EWG Verified」創設メンバーであり、化粧品から有害な化学物質を排除推進する様々な取り組みが評価され、Fast CompanyのMost Innovative Companiesにも度々選出されています。

住所:1410 Abbot Kinney Blvd, Venice, CA 90291

自社が定めたNever List™には、EUでパーソナルケア製品への使用が禁止または制限されている1,400種類に加えて、独自にスクリーニングして懸念があると判断したその他の有害な化学物質、合計1,800以上を使用しないと公言しています。


そんな消費者ファーストなブランドは、環境問題への取り組みにも余念がありません。店頭では、美容業界における循環型社会実現を提唱するNGOのPact Collectiveとの提携により、蓋やポンプといった消費者レベルでリサイクルしにくいコスメ商品パッケージを回収するプログラムを実施しています。基本的にはBeautycounterの使用済パッケージを回収しているようですが、他のブランドの空き瓶でも店頭に持参さえすれば責任を持ってリサイクルする、と店員さんが教えてくれました。

店頭に設置された、回収ボックス

またBeautycounterは2025年までに、パッケージの100%がリサイクル素材、リサイクル可能、詰め替え可能、再利用可能、または堆肥化可能に移行すると宣言しています。前述のプラスチック規制新法が義務付けられる前から、このようにエシカルな取り組みを先駆けて行っているブランドの代表と言えるでしょう。

Credo Beauty

住所:8327 W 3rd St, Los Angeles, CA 90048

クリーンビューティーのセレクトショップを全米で展開する、Credo Beauty。こちらもBeautycounterと同様に、自社が定めたThe Dirty List®を元に2700種類以上の有害化学物質を規制しています。厳しい審査基準を経て店頭に並んでいる取扱ブランドは、安全かつ効果的だとCredoが自信を持ってオススメするラインナップになっています。

また、真のクリーンビューティーは、人にも地球にも優しくあるべきだと考えるCredo Beautyでは、ブランドと取引する上で原料はもちろんパッケージにも厳格な基準を設けています。石油由来のプラスチックパッケージは、リサイクル素材を50%以上含む、または環境に優しい素材に置き換える必要があります。その上で製造者は、パッケージがパーツ毎にどのようにリサイクルできるのかも明確に提示しなければなりません。

MOB Beautyでは詰め替えができるアイシャドウパレットを展開している
カプセル型・使い切り美容液を販売するCommon Heirはパッケージは全てプラスチックフリー

Credo Beautyでは紙製や瓶といったリサイクル方法がより簡易で確立されている素材や、アップサイクル素材や詰め替えといったパッケージを採用しているブランドを積極的に取り扱っています。また、Beautycounter同様に、全米のCredo店舗でもあらゆる美容関連パッケージの回収を行っています。

さらに、2021年6月からは、使い捨てパッケージを使ったサンプルの提供を終了しました。店頭では代わりに、50セントを支払えば植物繊維からアップサイクルして作られた、堆肥化可能の容器を使ってサンプルが提供されています。この容器は、旅行先はもちろん、店舗に持ち込めば別のサンプルを入れてもらえるなど、再利用ができるように設計されています。

見た目はプラスチックとあまり変わらないが、植物繊維からアップサイクルして作られたサンプル用の容器

米国環境保護庁の2018年のデータによると、プラスチック廃棄物は約9%しかリサイクルされておらず、回収されたプラスチックのほとんどは焼却または埋立されていると言われています。このように深刻なプラスチック問題は、消費者にリサイクルや適切な廃棄を求めるだけでは解決できません。そして、何か行動を起こしたいと思っていても、個人レベルでは大した解決策を見出せずに困惑している消費者もたくさんいるのではないでしょうか。これからは地方行政や企業単位で、これ以上新しいプラスチックごみを作り出したり資源の浪費をしないよう対策を講じるのはもちろん、自社が作り出したあらゆるパッケージや資源ごみのリサイクルや廃棄方法も含めた、経営方針の透明性が求められる時代になってくるでしょう。

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