Devialet(デビアレ)は、2007年創業の高級オーディオと最先端技術を追求するフランスの音響技術企業だ。事業内容はアンプ、スピーカー、ワイヤレスイヤホン、サウンドバーなどのハイエンドオーディオ機器の設計・製造及び、特許技術の他企業へのライセンス供与がある。Devialetは、本格的なオーディオ体験を届けることで、サウンドの位置付けを生活の中で高めることをミッションにしている。Devialetは、今までにないオーディオ体験を提供することによって、サウンドの位置付けを人々の生活の中で高めることを企業理念として掲げている。計4回の資金調達で総額1億4300万ドルをArrive、Ginko Venturesといった直近の投資家を含む合計16の投資家から調達し、現在では70カ国以上に拠点を持つまでに成長、拡大している。Devialetの成功の裏にあるのは、すべてのDevialet製品に組み込まれた一連の抜本的な特許技術革新だ。他の追随を許さない音質と洗練されたモダンなデザインを組み合わせることで、Devialetの一流のエンジニア達はオーディオエンジニアリング業界をイノベーションで席巻し、オーディオエンジニアリングの限界を打ち破ったのだ。
財・サービスの優位性
革新的な技術力がDevialetが競合と一線を画す要因で、中でもADH(Analog Digital Hybrid)技術は、オーディオアンプにおける過去40年間の最も重要な発明の一つであり、Devialetの存在意義そのものだ。
その技術の背景にあるのは、アナログとデジタルという既存の2つの増幅技術を組み合わせることで、最もポピュラーなアナログアンプ(A級)のリニアリティ*と音楽性、デジタルアンプ(D級)のパワー、効率、コンパクト性という、両者の長所を実現するというアイデアだ。この革新的な技術こそが、Devialetの成功の土台となっている。
*電子回路では、入力と出力の関係が比例関係にあることを意味する。通常のオーディオ・アンプはこの特性を有しており、これをアンプのリニアリティ(直線性)という。
実際に、アンプ「Expert Pro」、スピーカー「Phantom」、完全ワイヤレスイヤホン「Devialet Gemini」、サウンドバー「Devialet Dione」などすべての製品にこの特許取得済みの革新的な技術が搭載され、この高機能かつ高品質な製品が多くの消費者に支持されきたのだ。
2. 顧客獲得・マネタイズ
Devialetのマーケティング戦略の一つの柱は、世界有数の高機能かつ高価なワイヤレススピーカーの販売を通じて、まず有名人やインフルエンサーたちの間でのブランド認知度を向上させることだった。同社共同創業者のQuentin Sanniéは、「我々の目標は今、巨大な企業になることではなく、少数の影響力のある人々に、これからの未来の大きな存在として認知されることだ」と語っている。
現在ラインナップの中のベストセラーは、22カラット金メッキでボディーが装飾されたオートバイのヘルメットほどのサイズの光るポッド型の高級スピーカー「Phantom」で、このスピーカー1台でロックコンサートのライブに匹敵するデシベルを備えている。現在ヨーロッパで2,900ユーロ、アメリカで3,800ドル、日本では519,000円で販売されているが、以前のモデルはさらに高価だった。
このようなプレミアムな製品を武器に音楽マニアにアピールしてブランドを築き上げたところ、Jay-Z、Beyonce、Musk、Will.i.amといった著名アーティストが、スポンサー契約を結んでいないにもかかわらず自らプロモーションしてくれるという驚くべき成功もあった。
しかし、Devialetの最終目標は、従来の狭義のオーディオ機器メーカーから、総合的な広義オーディオ技術メーカーに変身することにある。狭義のオーディオの市場規模は年間1億台に過ぎない一方で、テレビ、ノートパソコン、スマートフォン、自動車などのデバイスを含むサウンド市場全体は年間約30億台にも及ぶのだ。この巨大市場に参入するために、Devialetはここ最近、一連の戦略的パートナーシップを実施してきた。
例えばRenault、およびFaureciaとのパートナーシップは、Devialetが自動車用カーオーディオ業界に参入への道を開いた。また、RosenおよびLatécoèreとのパートナーシップは、航空用サウンドシステムの開発に携わることを可能にした。さらに、Sky、Savant、Belkinなどの企業との提携により、デビアレは家庭用エンターテインメントシステムやハイエンドスマートスピーカーの開発にも取り組んでいる。
また、Devialetはアジアのマーケットを強く意識している。実際に、Huaweiとの提携により、Devialetの中国市場での存在感は増すばかりだ。中国のマーケット限定でリリースした「Huawei Sound X」は、一般的なDevialetのスピーカーとは異なり、より手頃な価格で市場に流通し1,999人民元、つまり285ドル相当でペアのスピーカーを購入することができる。 このコラボレーションと中国市場におけるHuaweiブランドの強い存在感のおかげで、中国はDevialetにとって2番目に大きな市場へと成長、中国での売上は大幅に拡大しており、この収益性の高い市場に対する同社の信頼がより強固なものとなった。
3.キーパーソン
Devialetは、エンジニアのPierre-Emmanuel Calmel、デザイナーのEmmanuel Nardin、企業家のQuentin Sanniéの3人の出会いにより誕生した。
lPierre-Emmanuel Calmelは、Devialetの会長兼CTOである。彼は、Devialetの全製品に搭載されているADH(Analog Digital Hybrid)技術を発明した人物だ。彼は、当時勤務していたNortelにこの技術の提供を申し出たものの断られたため、会社を辞めて自ら試作品づくりに専念することを決めた。そして3年という月日の後、ADH技術を搭載したアンプの試作機を完成させた。
Emmanuel Nardinは、Devialetの共同設立者の1人で、製品デザイナーとして活躍している。彼は音楽をこよなく愛しており、Devialetをつくることは彼の夢の一つだった。当時エンジニアだったPierre-Emmanuelとは仕事上のきっかけで出会い、彼の革新的な技術をもとにEmmanuelの優れた製品デザインの感性が活かされ、Devialetは最先端のテクノロジーと、コンパクトかつ実用的でミニマリストなプロダクトデザインの融合を可能にしてきた。
戦略コンサルタントのQuentin Sanniéは、高度な技術を駆使したオーディオ製品を作りたい、できるだけ多くの人に使ってもらいたい、強いアイデンティティを持ちたいという共通の思いのもと、技術とデザインのバランス、そして技術を際立たせるデザインを保った製品の開発に貢献している。2012年からはCEOとして、チップセットに搭載するために技術を小型化し、サイズとコストを200分の1に抑えた。さらに、「Phantom」の製造技術を開発するために、初の音響エンジニアリングチームを採用することを決定したことなど、Devialetの発展と収益改善に貢献した。その後2018年にFranck Lebouchardを新しいCEOに迎えて以来、Devialetはさらに規模拡大や流通の能力を高め、カルチャー的な影響力も洗練されていった。
4. ディフェンサビリティ
同社は、Bluetoothチップを除いて、WiFiチップを含むほとんどすべての部品をフランスにある22の自社工場で生産しており、その特許出願数は200を超える。このような研究開発への集中的な投資が、同社の成功の鍵だ。
同社の技術的な優位性と特許の独占が、他社を寄せ付けない存在である理由であることは明らかだ。例えば、フラッグシップモデルのGold Phantomには最重要のADH技術を含む102の特許が搭載されている。このADH技術により、同社のスピーカーは、大音量と歪みのないクリアな音声を再生することの両立を実現している。このような新技術の開発に力を注ぐことで、Devialetは他社の追随を許さない存在となった。
このイノベーション精神の証しとして、ASIC(特定用途向け集積回路)やマイクロエレクトロニクス設計、デジタル信号処理アルゴリズム、音響の分野で、多数の特許を取得してきたのだ。
また、一連のパートナーシップ締結により、Devialetは研究開発に集中し、パートナー企業はDevialetの新しい市場の開拓に貢献するというバランスが保たれている。Huawei、Sky、Belkinといった世界的なトップブランドとの戦略的パートナーシップは、 Devialetの自社の販売網だけではカバーしきれない市場を開拓するのに貢献し、新たな技術開発への集中的な投資を可能にした。
また、パリ・オペラ座との提携もその一翼を担うものと言える。Devialetはパリ・オペラ座と10年間の契約を結び、ガルニエ宮に「sound discovery room」を建設することで、オペラ座を訪れる年間100万人以上の観客にアクセスできるようになった。これにより同社の技術がクラシック音楽業界においても優れていることを証明できる場となっている。
5. ゲームチェンジャー
現在のポジションを築き上げた注目すべきポイント
Devialetは、そのよく練られた二重の戦略によって、業界内で唯一無二の存在となったと言える。
創業当初は、垂直的統合による戦略で新技術の開発に注力し、競合他社よりも高級で技術的に優れたブランドを確立するフェーズ。製品の設計、開発、販売を自社内で賄い、特にPhantomシリーズなどの主力製品は、業界をリードする先進的な技術を証明し、市場での存在感を高める役割を果たした。
このように、オーディオ機器業界のハイエンド技術メーカーとして世界的な認知度とブランドイメージを獲得したDevialetは、水平型/機能型/B2Bプロバイダーとしての戦略を展開していった。
これを基盤として、近年はB2B2Cモデルを通じて世界中の消費者にリーチするための新たな戦略に移行している。Huawei、Sky、Belkinといった世界有数の企業とパートナーシップを組み、消費者の裾野を一気に広げ、収益を上げることに成功したのである。
また、技術先進性を企業としてのブランドイメージとして維持するため、Devialetはパートナー企業に技術供与を行うだけでなく、研究開発や市場に投入される製品の開発にも深く関与することで、自社ブランドを確立、維持している。
この二重の戦略を緻密に実行したことが、Devialetの成功を決定づけた。音楽愛好家や科学者が始めた国内のオーディオ研究開発ビジネスから、プレミアムオーディオ市場の「Intel Inside」としての地位を確立することに成功したのである。
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