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トラックドライバーのSNS、Trucker Pathに学ぶB2Bアプリの作り方

Game Changerでは、のべ1万社以上のスタートアップを分析してきたEISが厳選した、各業界の最先端事例はもちろん、他業界にも応用可能なビジネスアイデアや成功要因を解説しています。

Trucker Pathは全米の長距離トラックドライバーの2/3ほどが利用する、今やアメリカの物流業界になくてはならないサービスのひとつだ。創業からわずか4年後の2017年に150万ダウンロードを達成し、「Google Playで100万回以上ダウンロードされた物流業界初のアプリ」という金字塔を打ち立てている。そのコンセプトは物流とSNSという、およそかけ離れたもの同士を掛け合わせた非常にユニークなものだ。

目次

財・サービスの優位性

ニッチでもトラックドライバーの真の課題に挑戦

Trucker Pathはトラックドライバーのための駐車場情報のSNSとしてスタートした。 というのも、トラックドライバーにとって駐車場探しは最も頭の痛い問題だからだ。実際、全米のトラックドライバーの75%が休憩時に安全な駐車場を探すのに苦労しているという報告もあるほど、この問題は物流業界の大きなペインポイントといえる。しかしTrucker Pathを使えば、ドライバー同士で大きなトラックが停められる駐車場の情報や、現在の空き情報をシェアすることができ、これによってドライバーは毎月11時間、コストにして600ドルを節約できる。

彼らが次に目をつけたのがトラックと荷物のマッチングサービスだった。運送業界は多くが個人事業主の零細事業者で、日々トラックを運転しながら仕事も受注するのはドライバーたちにとって大きな負担になっている。また、業界が多重下請け構造になっており、荷主は自分の資産を運ぶトラックドライバーを自分で選択することは稀だ。しかし、当時長距離トラックドライバーの半数以上をユーザーとして抱えていたTrucker Pathなら荷主とドライバーを直接繋ぐことが可能だった。2017年に提供を開始したTruckloadsは10万社以上の運送会社と800以上の荷主を繋ぎ、毎日15万件以上の荷物情報が掲載される巨大なマッチングプラットフォームとなっている。

(左)駐車場の空き情報が緑色で表示される駐車場情報SNS、(右)荷主とドライバーを繋ぐTruckloads

顧客獲得・マネタイズ

基本機能は無料、集めたユーザーをベースに別のマネタイズ方法を編み出す

Trucker Pathのサービスは、駐車場のリアルタイム空き情報、全米5,000ヶ所以上の大型トラック対応ガソリンスタンドのリアルタイム価格、ウォルマートの開店情報(トラックドライバーの買い出しには郊外で大きな駐車場を完備しているウォルマートが便利だ)、各ポイントまでのナビゲーションなど、多くの機能が無料で利用可能だ。運輸局の安全ルールに準拠した適切な休憩タイミングの指示や、駐車場空き予測、各地のガソリン価格を踏まえた最適な給油タイミングの計算など、より効率化、コスト削減につながる機能は有料になるが、わずか300ドル/年と格安だ。荷物マッチングも、競合のConvoyTransfixがデジタルブローカーとして商流に入ってマージンを徴収しているのに対し、Truckloadsは商流に入らないマーケットプレイスとして展開し、成約手数料も取らない。では、どのようにマネタイズしているのか?彼らが新たに提供しているサービスにその答えがある。

マネタイズ方法①:広告ビジネス

Trucker Pathがサービスを提供するのはトラックドライバー、特に長距離ドライバーだ。一見すると極めてニッチなユーザー層だが、全米には160万人もの長距離ドライバーがおり、その大半が同社のアプリを使用しているとなると話は違って見えてくる。前述のトラック専用のガソリンスタンドやトラックドライバーが宿泊するホテル、あるいはウォルマートのような小売店など、トラックドライバーを上客とするビジネスは少なくない。彼らにとっては対象となる顧客層にピンポイントでリーチできる(しかもTrucker Pathはドライバーたちに毎日利用されるアプリだ)のは宣伝媒体として非常に魅力的だ。また、自分の店舗の駐車場の空き情報をオーナー自ら更新できる機能も開発中で、今後、駐車場を探し求めているドライバーに「うちの店の駐車場、空いてますよ」というごく自然な形でのマーケティングも可能になる。

ガソリンスタンドや小売店などの事業者は簡単なステップでトラックドライバー向けに広告を出すことができる

マネタイズ方法②:金融ビジネス

「物流と金融」と聞いてもピンと来ない人は多いかもしれないが、実は物流は金融ビジネスの宝庫だ。なぜならトラックが運んでいるものは荷物=荷主の資産そのものであり、大型のトラックともなれば巨額の資産を載せて走っている。また、運送サービスは短ければ数時間、長くても2~3日で完了する役務であり、一回の取引金額は小さいが、毎日大量の取引が発生している。Trucker Pathはそこに目をつけ2つの金融ビジネスを提供している。

まずは貨物保険だ。輸送中、万が一の事故などの時、荷主の資産は大きなリスクに晒される。Trucker Pathは荷物のマーケットプレイスには課金しないが、積荷のリスクに対し荷主がかける保険を提供している。毎日15万件の荷物情報が掲載され、次々と成約していけば、そこに発生する保険の額も決して小さくないだろう。二つ目の金融ビジネスはキャッシングサービスだ。ドライバーはガソリン代やトラックのメンテナンス費用などのコストを負担しながら運送役務を提供する。一方で荷主から運賃が支払われるのは実際の役務提供日から30~60日後だ。そこでその間のギャップを埋めるべくドライバーに貸付を行うサービスを始めている。例えばある業務の運賃が1,000ドルだった場合、Trucker Pathはそのドライバーに即金で支払う代わりに金額を950ドルに割引く。30日後、荷主から1,000ドルが振り込まれればTrucker Pathの利益は50ドルだ。こちらも一件ごとの金額は小さいかもしれないが、毎日大量の取引が発生する運送業界であれば、ちりも積もれば山となる。

このようにして、Trucker Pathは無料あるいは破格の料金でドライバー向けのサービスを提供し、集めたドライバーを活用した新たなマネタイズ手法を編み出したのだ。

キーパーソン

創業当初からTrucker Pathを支援する、中国SNSの雄RenRenのCEO

1章2章でTrucker Pathのサービス、マネタイズ方法を見てきたが、これらは私たちが日々使用しているSNSのコンセプトそのものだ。例えばFacebookはユーザーが利用するほぼ全てのサービスを無料で提供し、大量のユーザーを獲得した上で、彼らにリーチしたい企業に課金して広告ビジネスを展開している。Trucker PathはB2Bビジネスで同じことをやっているのだ。B2B、しかもお堅い印象のある物流業界でSNSビジネスなんて無理ではと思われるかもしれないが、物流業(特に運送業)こそ、SNSビジネスに最適なのだ。なぜなら第2章でも述べたように運送業は中小零細企業の集まりで、トラックドライバーは個人事業主のようなものだ。つまり彼らを企業(B)として捉えるよりも、個人(C)として捉えた方が実状には近い。それを早くから見抜き、SNSビジネスの経験に基づくアドバイスを行なってきたのが中国のFacebookことRenRenの創業者Joseph Chenだ。彼はスタンフォード大学を卒業し中国IT界の巨人RenRenを創業したため、テック・ITの人という印象が強いが、実は若い頃に家業である運送業のトラック運転手として3年間アメリカ東海岸を走り、トラックドライバーや業界が直面している課題をよく理解していた。そんな彼が創業まもないTrucker Pathの可能性に気づき、戦略面でのアドバイスおよびシードラウンドから出資を行なったことで、トラックドライバーのためのSNSという他に類を見ないユニークなコンセプトのビジネスが生まれた。

ディフェンサビリティ

ロングテイルのマーケットを押さえることこそが最高のディフェンサビリティ

Trucker Pathの最大の資産は全米中の長距離トラックドライバーにリーチできるという点に尽きる。しかも中小零細企業が集まるロングテイルマーケットでは一社一社を自社サービスに載せ替えていくことは後発企業にとって手間がかかりすぎる。そうであればすでに当該マーケットを押さえているプレイヤーと組んでしまう方が圧倒的に手っ取り早く、Trucker Pathが今後もトラックドライバーたちの課題を解決し続ける限り、必然的に先行者である彼らの優位性は担保されるだろう。

ゲームチェンジャー

現在のポジションを築き上げた注目すべきポイント

Trucker PathのユニークさはB2BビジネスにB2Cビジネス、それもSNSという一見すると無関係な要素を持ち込んだことだ。ただ、企業とはいえ個人ビジネスの集まりである運送業にはむしろ私たちが日常的に使用しているB2Cビジネスのコンセプトの方が受け入れられやすい。今後は付加価値サービスの追加や他社との連携など、トラックドライバーとつながるアプリである利点を最大限に活かした積極的な拡大戦略が必要となるだろう。

私たち全員が毎日何時間もSNSなどのアプリを開いている現代、UI/UX(ユーザーインターフェース、ユーザーエクスペリエンス)やビジネスモデルなどの点でTrucker PathのようにB2CとB2Bの境目を意識しないサービスが増えてくるだろう。事業企画においても、B向けサービスだからと言った先入観を排除し、自社のターゲットユーザーが最高の顧客体験を得るためにはどのようなアプリ、ビジネスであるべきかを突き詰めて考えていくことが重要になる。

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