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ルルレモンが作り上げたコミュニティベースドマーケティングの強さ

Game Changerでは、のべ1万社以上のスタートアップを分析してきたEISが厳選した、各業界の最先端事例はもちろん、他業界にも応用可能なビジネスアイデアや成功要因を解説しています。

カナダ・バンクーバーのローカル店舗として1998年に創業したルルレモン(正式名称はルルレモン・アスレティカ、LULULEMON ATHLETICA)。今では世界各地に約500店舗を構えるスポーツ・ライフスタイルアパレル企業に成長した。その成功の真髄は、機能性やデザインといった多くのアパレル企業が中心に置く価値ではなく、「店舗を中心としたローカルコミュニティの醸成と、コミュニティ活動を通じた熱狂的なファンの獲得」にある。その強固なファンベースはコロナ禍においても揺らぐことはなく、2020年、2021年も売上高はプラス成長を続け、2021年の売上高63億ドル(約7,500億円)はコロナ前の2019年の1.5倍と成長スピードはコロナ禍でむしろ加速している。Eコマースを通じていつでもどこでも商品を比較し即座に購入できる時代だからこそ、商品そのものではなくコミュニティとそこで得られる経験にフォーカスした彼らの軌跡からコミュニティベースドマーケティングについて学ぶ。

目次

財・サービスの優位性

店舗を商品販売の場ではなく、ローカルの人々が集うコミュニティハブに

ルルレモンは多くの店舗にイベントスペースやヨガスタジオがあり、ヨガ教室、ズンバ教室、ランニングイベント、栄養講座やマインドフルネス講座など様々なイベントが開催されている。そこにはこれらの運動やライフスタイルに関心のあるローカルの人々が集い、互いに関係を構築していく。さらに、ネットワーク効果により家族や友人など周囲の人々を巻き込みながらコミュニティへと成長していくのだ。ルルレモンと同じようにローカルコミュニティを拡大している例としてアディダスによるadidas Runnersがあるが、アディダスが大都市を中心に都市単位でコミュニティを形成しているのに対し、ルルレモンは店舗を中心によりローカルなコミュニティを形成している。  

ローカルコミュニティハブとなるために地元の店舗との連携もうまく活用している。イベントの際にサンプリングなどで地元の店舗の商品を紹介したり、地元の店舗でイベントのアナウンスをしたりといった具合だ。そうやってローカルコミュニティに溶け込んでいくことで、「売る人と買う人」という商売の原則ともいえる関係性ではなく「私たちのコミュニティの一員」という関係性を構築することができる。  

店舗でのイベントを通じて人々がヨガなどの活動に関心を高めると、必然的にヨガ教室に着ていく服が必要になる。さらにアメリカでは運動の前後に着替えずにその姿のまま他の用事をすることが一般的なので、町で着ていても恥ずかしくない格好いいアパレルが求められる。そんな時ルルレモンの店舗にぴったりな商品があれば、もはや売り込まずとも商品を手に取ってもらうことが可能になる。このように人々のライフスタイルの一部を担い、その中で求められるものを提供することで、他より高額の商品であっても販売を伸ばすことに成功した。

Mall of Americaにあるlululemon experientialストアで行われているヨガクラス / photo credit: Mpls St Paul 

顧客獲得・マネタイズ

地元で同じ価値観を持ち活動する人々をアンバサダーに指名し相乗効果を生み出す

ルルレモンのもう一つの特徴がアンバサダーだ。アンバサダーには2種類ある。一つは各分野の第一人者がなるグローバルアンバサダーで、もう一つが店舗ごとに契約しているストアアンバサダーだ。ストアアンバサダーは世界に1300人ほどいるが、地元でヨガのインストラクターやマインドフルネスの講師をしている。ストアアンバサダーになることで収入を得ることはないが、店舗でのイベントに参加することで潜在的な顧客と接点を作ることが可能になるし、ルルレモンからギアの提供を受けることもできる。

このストアアンバサダー制度はルルレモンにとっても非常に重要な顧客獲得導線となる。ストアアンバサダーが自身の教室やローカルのコミュニティでルルレモン自体やイベントの紹介をしてくれることで、来店者を増やすことができる。また、近年、消費者および投資家から重要視されているESG経営の観点でも、ローカル社会に貢献する人々を支援し共に成長するルルレモンのアンバサダー制度は高く評価される。

アンバサダーを採用する際に最も重要なのは、ルルレモンの大切にしている価値観や目指す世界観を共有できる存在であるかという点だ。SNSなどのインフルエンサーによる宣伝に疲れた現代の人々は、身近な存在=ローカルインフルエンサーの心からの言葉に心動かされる。従ってアンバサダーとの価値観の共有は何よりも重要である。

各ストアで活躍するストアアンバサダー達 / photo credit: lululemon

キーパーソン

ローカルコミュニティ作りの主役ストアマネージャー

これまで見てきた店舗を中心とするローカルコミュニティの醸成は本社の指示で行えるものではない。そこでルルレモンではストアマネージャーに大きな権限を与えて彼らにコミュニティ作りをリードさせている。具体的には、店舗レイアウト、カラーコーディネーション、地元コミュニティに対するメッセージやコミュニティ活動への参加方法まで、ストアマネージャーが自らの意思と責任で決定している。そして会社はストアマネージャーに一つ一つの意思決定が各店舗の所属しているコミュニティにとって正しいものかどうかを判断基準にするよう促している。マネージャーの大半が社内からの昇格組であることも、ルルレモンの企業文化を理解した人間に最も重要なコミュニティビルディングを任せるという会社の意志の表れだろう。

ディフェンサビリティー

築き上げた強固なローカルコミュニティをインターネットの力で世界に拡大

地域に根ざしたローカルコミュニティを醸成し、コミュニティを通じて商品をマーケティングしてきたルルレモンはコロナ禍でその世界観をオンラインに拡大してきた。具体的にはこれまでローカルで行っていたヨガイベントなどをオンラインで実施することでこれまで築いてきた顧客との繋がりを維持・強化した。

制作:EIS

また、コロナ以前から取り組み始めていたEコマースが、コロナ禍のオンラインショッピング化の流れに乗って急成長。2019年にすでに売上の29%を占めていたEコマースが、2020年には52%にまで拡大した。これは冒頭に説明した通り会社全体の売上を伸ばしながらのことで、Eコマースだけで見ると1年で2倍以上に成長した。

参照:lululemon Annual Report 2020

ゲームチェンジャー

現在のポジションを築き上げた注目すべきポイント

今回はルルレモンが同じ興味・関心、志を持つ人々が集うコミュニティを作り上げることでマーケティングを成功させた背景をさまざまな角度から解説した。しかしコミュニティが力を発揮する領域は決してマーケティングのみに留まらない。商品開発においても直接消費者の声を聞くことができることは強みになるし、カスタマーサポートでも消費者のリアルな声を拾えることでより顧客に寄り添った対応が可能になる。

コロナ禍で人々の繋がりがオンラインに限定される期間が長く続いたことで、ポストコロナでは人と人との対面での繋がりが再び脚光を浴びてくるだろう。また、サプライチェーンの乱れや地元をサポートしたいという思いが重なって、社会や生活のローカル化が加速している。小さくともそれぞれの地域に根ざした取り組みを強化することは不測の事態においても強固なビジネスに繋がることはルルレモンが身をもって証明しており、多くの企業にとって参考になると考える。

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