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GoPuff:孫正義が心酔するGoPuffは、なぜネットコンビニのリーダーとなり得たか

Game Changerでは、のべ1万社以上のスタートアップを分析してきたEISが厳選した、各業界の最先端事例はもちろん、他業界にも応用可能なビジネスアイデアや成功要因を解説しています。

GoPuffはアメリカ国内約650都市でスナックや飲料、日用品をオンライン販売するネットコンビニを運営。孫正義率いるソフトバンクビジョンファンドも注目しており、2019年から4度にわたり出資。今やその企業価値は150億ドル(1兆7,000億円)だ。WalmartをはじめとするスーパーマーケットチェーンやUber、DoorDashなどのデリバリーサービスなどの潜在的競合がひしめき合う同市場で、いちスタートアップから業界をリードする存在へと駆け上がったGoPuffの成長の秘密に迫る。

目次

財・サービスの優位性

24時間営業でオーダーから30分以内に商品を配送するマイクロフルフィルメント

GoPuffは創業当初から「24時間営業」と「オーダーを受けてから30分以内に商品を配達」をコミットしてサービス提供を開始した。広大なアメリカでは一部当日配達可能なケースもあるが、スピード配達はAmazonのPrime会員向けサービスなどのように2 day delivery=翌々日配達が標準で、通常のEコマースの場合1週間以上かかることも珍しくない。そのような環境下で30分以内の配達を実現したGoPuffは、アメリカの消費者に衝撃と感動を持って受け入れられた。

GoPuffがこのような圧倒的なサービスを実現できたのは、彼らの築き上げたマイクロフルフィルメントネットワークの賜物だ。通常のEコマースでは郊外に大型の倉庫を構え配送を行っている。それに対しGoPuffのマイクロフルフィルメントネットワークは、消費者に近いところに小型の倉庫を配置している。倉庫面積は日本のミニスーパーと同程度のおよそ300~500平米で、約2,500点の商品を在庫している。このような小型の倉庫を網の目のように配置することで、対象地域内のどこへでも30分以内の配達が可能になる。

これはちょうどWalmartのような小売事業者が店舗を構える際の考え方に似ているが、小売事業者は店舗での販売とオンラインで販売した商品の配達を両立しようとするのに対し、GoPuffはオンライン販売における配送拠点に特化することで、限られたスペースを最大限有効活用するとともにコストを最小化している。

日本のミニスーパーと同規模のマイクロフルフィルメントセンターを張り巡らせている

顧客獲得・マネタイズ

学生の学生による学生のためのサービスとしてスタート

GoPuffは今でこそ全米にサービスを展開しているが、サービス開始当初は非常にユニークな戦略をとっていた。以下の図はGoPuffが最初にサービス展開したおよそ100都市を示したものだ。まず驚かされるのがスタートアップの聖地カリフォルニアで全く展開していない点である。UBERやDoorDashなど新たなビジネスモデルで市場に切り込むスタートアップはサンフランシスコをはじめとするカリフォルニアの主要都市を最初の市場とすることが多い中、これは異例中の異例と言える。また、中西部など比較的IT化が遅れている地域に早い段階から進出しているのも注目点だ。

シリコンバレーやロサンゼルスには始業当初拠点はなかった

実は彼らはサービス開始当初、カレッジタウンと呼ばれる、大学を中心に周辺に学生や大学関係者が多く住む都市を狙い撃っていった。カレッジタウンは以下の3つの観点でGoPuffにとって最適な市場と言えた。

フロリダ大学があるフロリダ州ゲインズビルのカレッジタウン

1. 市場

多くのカレッジタウンは地方にあり大都市から離れているため買い物をする上での選択肢が限られている。一方で主な居住者は学生や卒業生など若い世代が多くITリテラシーは高い。また、学生は学生寮や大学周辺の学生向けアパートに固まって住んでおり、夜な夜なパーティーを楽しんでいる。アプリでEコマースサービスを提供し、短時間に多くの消費者に商品を配達するGoPuffのようなサービスを提供する上で、同質の消費者が高密度で集まっているのはとても有利だ。

2. 労働力

GoPuffのビジネスに欠かせないのが商品を配達するドライバーの存在だ。カレッジタウンに住む学生たちは授業の合間など隙間時間を活用した柔軟な働き方とそれによる小遣い稼ぎに魅力を感じるため、彼らの労働力を上手に活用すれば独自の配送網を作ることができる。さらには、UBERなどのライドシェアやデリバリーサービスが送迎や配達ごとに成果報酬を払うのに対し、GoPuffは拘束時間で報酬を払っている。これにより、オーダーが少ない時間帯でもドライバーを確保することができる。

3. マーケティング

GoPuffのターゲットは学生であり、取り扱う商品は学生が毎夜パーティーをする際の必需品だ。そこで彼らは学生自身をマーケティングに活用した。学生の中からCampus Ambassadorと呼ばれるコミュニティインフルエンサーを募り、彼らがキャンパス内やSNS上で他の学生にGoPuffをアピールする。サービスを利用する際に各Campus Ambassadorに割り当てられたコードを入力してもらうことで紹介者にインセンティブを支払う仕組みを構築した。

アンバサダー達はGoPuff Crewと呼ばれている

キーパーソン

共同創業者兼共同CEOのRafael Ilishayev(左)とYakir Gola(右)

学生の生活スタイルと課題を最もよく知るのは学生

第二章で見てきたようにGoPuffはカレッジタウンに住む学生や若い卒業生をターゲットにビジネスモデルを作り上げた。このようなユニークで理にかなったビジネスを生み出すことができたのもGoPuffの創業者自身が学生だったからだ。フィラデルフィアのDrexel Universityに通っていたRafael IlishayevYakir Golaの二人は「パーティーの時に水タバコを会場まで届けてくれるサービスがあればいいな」と思い立ちGoPuffを創業した。その名残が社名のPuffに残っている。当然、学生が夜な夜なパーティーをする際に必要となるスナックやドリンクなども提供され、学生の利用者を爆発的に増やしていくことになった。

このように、新規ビジネスを成功させる上でターゲットとなる消費者の課題(Jobs to be done)や行動原理、生活スタイルを深く理解することはとても重要だ。GoPuffは創業者自身がターゲット消費者であり、その特性を高い解像度で理解できていたことで、大きな飛躍につなげることができた。

ディフェンサビリティ

Z世代をターゲットとする企業にテストマーケティングの機会を提供し魅力的な新商品を安価に調達

GoPuffの着眼点は非常にユニークで同社を大きく成長させる原動力となったが、「日用品の超速配達」というビジネス自体は追従されやすく、InstacartのようなデリバリーサービスやKrogerなどスーパーマーケットチェーンも同市場に参入してきている。そんな中、GoPuffの差別化のキーワードはまたもや「学生」だ。これまで見てきたようにGoPuffは学生や卒業したての社会人から絶大な指示を得ている。彼らはZ世代と呼ばれ、アメリカの個人消費の40%を担う極めて重要な世代だ。そこでGoPuffは自社をZ世代へのマーケティングの場としてアピールしている。一例を挙げると、サプライヤーと小売事業者のオンラインマッチングプラットフォームRangeMeと連携して、Z世代を対象に自社の新商品をテストしたい、あるいはアピールしたいサプライヤーから新商品を調達している。サプライヤーはGoPuffを通じて効率よくターゲット消費者にリーチが可能となるし、利用者は新しい商品をいち早く試すことができる。そしてGoPuffは他社が扱っていない商品を安価に仕入れて提供することで差別化を図れるというわけだ。

サプライヤーと小売事業者のオンラインマッチングプラットフォームRangeMe

ゲームチェンジャー

現在のポジションを築き上げた注目すべきポイント

GoPuff成功の一番の要因は「ターゲット消費者を明確」にして、「解像度高くターゲット消費者の課題、価値観、生活スタイルを理解」し、適切なサービスを構築したことに尽きる。これは全ての企業、ビジネスに共通するが、自分の企画にそったストーリーでなんとなくターゲットペルソナを作っていると商品を市場に投入した後で消費者から思ったように支持を得られない。消費者理解こそが全てのスタートである。

また、リソースの限られているスタートアップが効率よく事業を立ち上げて軌道に乗せていく上で、一つのリソースに複数の目的で活リーチするアイディアは注目に値する。GoPuffは「学生」を「顧客」「配達係」「インフルエンサー」の3つの目的で活用することで、本来であれば一つ一つの機能を司る人々に自社を理解し、共感し、参画してもらわねばならいないところ、それらを同時に行うことに成功した。

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