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世界的に導入が進むカーボンプライシングの課題と可能性

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みなさんはカーボンプライシングという言葉を耳にしたことがありますか?カーボンプライシングとは二酸化炭素の排出に応じてチャージされる金額のことで、国によって炭素税という税金で徴収されるケースもあれば、排出量取引という形で企業間で排出権を売買するケースもあります。炭素税は、90年代に北欧のフィンランド(90年)、スウェーデン(91年)でまず導入され、その後、ヨーロッパを中心に徐々に広まっていきました。この税金は、CO2排出量に応じてすべての製品やサービスに課され、二酸化炭素排出量の多い製品の経済的魅力を低下させ、より気候変動にポジティブな製品に投資を向けることを目的としています。炭素の価格設定は、よりクリーンな技術への追加コストや投資を補うものであり、排出量削減に有効な手段です。また、環境汚染に加担する企業に環境破壊の代償を払わせる強力な手段でもあると言えます。

カーボンプライシングの現状と課題

世界的には、カーボンプライシングは45カ国で既に採用済みで12カ国が採用予定です。しかし、現在、採用されている制度とその結果としての炭素排出の価格には大きな隔たりがあると言えます。炭素の価格設定は下図参照の通り、CO2排出量1トン当たりオーストラリアの0ドルからスウェーデンの130ドルまでかなり大きな差があります。

カーボンプライスの不一致, image credit: Green City Times

このため、EUのような規制の厳しい国から、中国、オーストラリア、インドのような規制の緩い国へ、企業がCO2排出量の多い活動を移転させる可能性があります。このようにして、炭素価格がより低い地域における二酸化炭素排出量が増加することをカーボンリーケージと呼びます。

欧州中央銀行が最近発表した研究論文によると、課税はカーボンリーケージのために銀行融資のグローバルな影響に限定的であることが示されています。欧州の銀行は、欧州の高排出ガスプロジェクト(石炭やガス発電所など)への融資を減らしていますが、この削減は、同じ銀行がそのグローバル子会社を通じて、より許容度の高い他の地域の高排出プロジェクトに融資することで相殺されていると考えられます。

炭素国境税とその実現に必要な真の原価計算

この矛盾を調整する一つの方法は、EUが今年初めに提案した炭素国境調整メカニズム(CBAM)のような炭素国境税を導入することです。例えば、欧州で販売されている電気自動車に使われている電池は主に中国で製造され、石炭火力発電所の電力を使って生産されています。すなわち炭素国境税が導入されると、電池の価格が2倍に上がる可能性があります。このEUの提案は、製品の陸揚げコストに大きな影響を与えるため、インド、ブラジル、南アフリカ、中国が強く反対しています。

また、中国やインドなど発展途上国で排出量の多い電力を使って生産されている多くの商品の価格を引き上げることになるため、欧州でもこの税は批判と不評にさらされています。さらに重要なのは、このような税の導入には、2つの大きな課題を克服する必要があるということです。

  1. 輸入製品の炭素含有量と炭素価格の一貫した評価・会計処理
  2. 費用対効果の高い方法でこの炭素含有量を監査し、真の排出量データと照合する能力

Morgan Stanley、ABN AMRO、Bank of Americaなどの大手投資銀行を含む183の金融機関と、WRIが設立したシンクタンクGHG Protocolは、最初の問題の解決策としてPACF (Partnership for Carbon Accounting Financials) という国際イニシアティブ を結成しました。PACF は、「Global GHG Accounting and Reporting Standard」という規格を策定しています。この基準は、製品、サービス、または投資の真のコストを説明するために、将来的に標準となるべき規格と言えるでしょう。

一方で、いくつかのスタートアップ企業は、炭素排出の測定と監査を効率的に行う方法を提供することに注力しています。例えば、CarbonSpace(アイルランド)、Satellite Vu(イギリス)、Kayrros(フランス)は、衛星画像と人工知能を使って、カーボンフットプリント・モニタリング・サービスを提供しています。また、Aclima(アメリカ)のように、都市や産業界の排出量を現場で測定するIoTベースのサービスを開発した企業もあります。


Carbon Spaceが提供する炭素総排出量データマップ

以下、EISの考察です

  • 炭素国境税がいつ適用されるかはまだ不明だが、すべての製造業や物流企業は、排出量を含む製品の実質的なコストを認識し、この税が適用された場合の競争力を評価する必要がある
  • 昨今のパンデミックによるサプライチェーンの混乱と合わせて、この評価は企業のサプライネットワークを見直す原動力となり得る。サプライヤーを含めた炭素排出量の測定を怠ると、税金が上がり仕入れコストにも影響が及ぶことを留意すべきである
  • 排出量の測定や監査の分野は、新しい製品やサービスの機会を提供する。これまではスタートアップが中心であったが、今後は会計、監査、コンサルティング、貨物輸送といった業界ごとに炭素排出量の測定と監査サービスが出現するだろう

参考文献

  1. The Economist
  2. European Central Bank
  3. frontier economics
  4. The European Commission
  5. Climate Home News
  6. PCAF

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