先週10月25日にレンタカーシェア大手のHertzが、Teslaから合計10万台の電気自動車を2022年末までに購入するというニュースが報じられました。Hertzの今年3月時点での米国における保有車両台数は29万台ですから、今回の調達により同社の保有車両の1/4程度がTeslaの電気自動車になることになります。
なお、早速11月1日よりTeslaが配備されているLos Angelesで予約を試みたところ、11月中はすでに予約でいっぱいとなっていて、注目と人気の高さを伺わせます。
また、今回購入される10万台ですが、全てが一般利用者向けのレンタカーとして配備されるわけではなく、最大5万台は提携するUberのドライバー向けのレンタル車両として配備される計画とのことです。
このニュースはEVの普及、チャージングステーションや修理ネットワークなどのインフラ整備などの観点から注目されていますが、ミレニアル世代やZ世代といった若い世代の持つ価値観と消費行動がこれらの企業の戦略に大きく影響を及ぼしているという観点でも非常に大きなニュースです。
アメリカにおける車を所有することに対する意識の変化
アメリカはご存知の通り車社会で、一家に一台どころか一人に一台車を所有するというのが長らく当たり前となっていました。しかし、ミレニアル世代とZ世代はその常識を大きく覆しています。実際にアメリカの若い世代では自動車所有率だけでなく運転免許証の取得率までも低下しており、「移動手段の確保は重要だが車を所有することは重要視していない」と答える人の割合はミレニアル世代で45%、Z世代で55%にも上っています。
また、上記の価値観を裏付けるように、アメリカではUberやLyftに代表されるライドシェアやZipcarなどのカーシェアリングが急速に成長しています。
背景には、若い世代の「車を所有することにまつわるさまざまな厄介ごとから逃れて、純粋に移動手段として利用したい」という考えがあります。また「必要な時に必要なだけ利用する」ことを重要視しており、所有はその考えと対極にあるため敬遠されています。余談ですが、新しい車の利用形態としてライドシェア、カーシェアリングと並んで注目されていたサブスクリプションは、手続き上のメリットはあるものの所有と概念が近かったせいか、支持を集めることができずOEM各社もスタートアップも撤退を余儀なくされています。
環境に対する意識の高さ
また、環境に対する意識の高さもこれらの世代の大きな特徴ということは皆さんもご存知のことと思います。最新の調査の数字をご紹介すると、過去1年で実に3割の人が気候変動に対する何らかの個人的なアクションを行っており、環境に対する意識の高まりは年々顕著になっています。
このような価値観が広まった結果、若い世代に車の購入について尋ねると、
- 車は不要、必要な時にライドシェアかカーシェアを利用する
- もしどうしても車を購入する必要があるならば、環境に優しいTeslaを選択する
という回答が聞かれます。この流れは近年加速しており、ライドシェアにおいても環境に配慮した自動車であるべきという考えが広がっています。結果、Uberは2040年までに世界の全てのライドシェア用の車両をEV化すると宣言し2025年までに8億ドルを投じると発表しました。
また、ライドシェアやカーシェア同様、レンタカーのニーズも若い世代で高く、特にレンタカーを借りる際に保険料等が割高にならないミレニアル世代はレンタカーに最も好意的に反応する世代です。これらの事実を踏まえると、今回Hertzが10万台ものEVを購入し、若い世代に指示されるライドシェアへの車の貸し出しおよび自社フリートにおいてもEV化を進めたのは、当然の帰結と言えるでしょう。
以下、EISの考察です。
- ミレニアル世代、Z世代の持つ価値観が、各企業のビジネスモデルの変革に強く影響を及ぼしている
→「所有」からシェアリングなど「アクセス」への変化。この背景には「物を所有することによる煩わしさからの開放」、「必要な時に必要なだけ」という価値観がある
→環境に対する意識の高さ。環境に配慮していない商品、企業はもはや選ばれない時代である
- 上記のようなミレニアル世代、Z世代の価値観に基づく業界の変革はレンタカーや自動車産業にとどまらず多くの産業で見られる。すでにアメリカの人口の40%、消費においては半分以上を占める彼らの価値観に基づく企業、商品戦略は今後一層重要になっていく
参考文献