Amazonは1994年の創業以来、27年の間に様々な変革を成し遂げています。オンライン書店からあらゆるものを扱うメガストアへの成長、PrimeやFBAなどの付加価値を武器とするオンライン・プラットフォーム・サービス、AWSという世界最大級のクラウド・コンピューティング事業、アカデミー賞やエミー賞を受賞するレベルの映画やテレビ番組を制作するコンテンツ事業など、全て「自社の顧客に何が必要か？」「どうすれば顧客経験を最高にできるか？」という視点に立って生まれた事業です。
しかし、今までの道のりにおいては、数多くの失敗を繰り返し、いくつもの事業撤退を経験してきています。例えば、eBayに対抗して始めたオークション・サービス「Amazon Auction」、3D対応スマートフォン「Fire Phone」、ホテルやレストランなどの割引クーポンの販売サービス「Amazon Local」、各種送金決済サービス「Amazon Web Pay」「Amazon PayPhrase」「Amazon Local Register」「Amazon Wallet」などです。
創業者CEOのジェフ・ベゾスは、アニュアル・レポートの株主への手紙で「Amazonは世界一多くの失敗をする企業である」と言い切り、同時に成功の秘訣を「顧客満足へのこだわり、行動偏重、実験の繰り返し、倹約、直接的なフィードバック、継続的な結果測定を重視する文化だ」と指摘しています。それはコロナ禍でも止まることはなく、移り変わり行く市場のニーズやトレンドを捉えるために、競合他社に先立ち、様々な実験に取り組んでいます。
Amazonがこの1年間で取り組んできた施策の例：
- Amazon Explore
2020年9月末にサービス開始したバーチャル体験のマーケットプレイス。料理教室、ショッピング、人気都市ツアーなどをシェフ、スタイリスト、ツアーガイドがライブストリーミング形式で案内して、体験とプロダクトの両方を売るサービス。ユーザーに対して新しい趣味や土地を紹介することにより、今までよりも親しみを感じさせる新たな商品販売モデルの実験。 - Amazon Salon
2021年4月に英国ロンドン市でオープンした美容院。AR搭載の鏡で施術前にさまざまな色やスタイルを顧客に見せることができるだけでなく、QRコードを読み取れば、Amazonでヘアケア製品の購入が可能。 - Amazon Fresh Mega Store
2021年6月に米国ワシントン州ベルビュー市でオープンした2,500平米（756坪）の大型店舗。米国最大級スーパーマーケット「Safeway」を買収してAmazon Freshのレイアウトに改装し、スマート・ショッピング・カートなどを取り入れ、Amazon Goで検証したキャッシュレス決済の仕組みを導入。 - Amazon Care、Amazon HealthLakeを通じたヘルスケア革命
2021年3月に、チャットやビデオ電話を通じて医療専門家が医療処置から薬の処方まで対応するオンライン診療サービス「Amazon Care」を開始。今月15日には、医療機関によるクラウドベースのヘルスデータの保管や利用を可能にする「Amazon HealthLake」サービスの一般提供（GA）を米国の一部リージョンで開始。ヘルスケア分野におけるAmazonの影響力はどんどん拡大。
以下、EISの考察です。
- 人々のライフスタイルや消費トレンドが変化する今日、顧客視点に立った経営の徹底は今まで以上に重要となる
- その上、欧州の一般データ保護規則（GDPR）や米国カリフォルニア州消費者プライバシー法（CCPA）の施工により顧客データの取得方法は限定的となり、オンライン／オフライン問わず、顧客との接点を可能な限り多くするオムニチャネルでの事業展開がカギとなる
- Amazonを初め、欧米の成長企業はこの現状を踏まえ、速やかに企画を実行に移し、顧客の満たされていないニーズを市場での実践・実験を通じて仮説検証し、価値のある財・サービスを展開している
- 特に欧米で消費者向けビジネスを展開する企業においては、どんどん打席に立ち、ヒット打率が低くても、消費者との直接のやり取りを繰り返し、差別化できる自社の提供価値を探り当てる方法論とケイパビリティの構築が不可欠となる
