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薬用きのこは昔から、免疫力向上や炎症緩和など病気予防と健康促進に効く薬として扱われてきました。その「きのこ」の本体とも言える「菌糸体(mycelium)」が、最新バイオテックにより梱包材、ヘルスケア、スキンケア、衣類や靴、代替肉、建材などを生成する素材として大きな注目を集めています。米Grand View Researchが2020年にまとめた調査レポートによると、世界のきのこ産業は、2025年には500億ドル(約5兆5千億円)規模の市場になると予測しています。
きのこを材料とする商品開発の例:
- サステイナブルな生分解性プラスチックとしての梱包材
IKEAやDELLはスタートアップ企業「Ecovative Design」と提携し、廃棄物を削減するための取り組みとして微生物の働きで分解される菌類素材で配送用の梱包材を開発。保護性能はもとより、防水性に富み、着火しにくいのが特徴。梱包材そのものを遠方から輸送する必要なく、梱包の現場近くでわずか9日で成型できる点がメリット
- 菌糸体を原料とした人工肉
ヴィーガン人口の増加で、欧米ではきのこ成分入りのドリンクを専門とするカフェが人気を集め、きのこブームが巻き起こっている。そんな中、多くのスタートアップは菌糸体を原料とするステーキ、ベーコン、ハンバーガーなどの開発に取り組んでいる
- 「霊芝(レイシ)」という種類のきのこからの抽出物が入ったスキンケア商品
霊芝には肌にとって強力な抗酸化物質やビタミンDが多く含まれ、乾燥に負けない肌の老化を予防するアンチエイジング効果がある。また、抗炎症作用もあるため、肌の炎症やニキビにも効果があり、ストレスなどによる肌トラブルを緩和することが期待できる
- きのこ由来のアパレル素材
Lululemon、Adidas、Gucciを含む大手ブランドがスタートアップ企業「Bolt Threads」とコンソーシアムを組み、菌糸体を素材とする衣類や靴を生産するために数百万ドル(数億円)を投資すると発表。またHermesはスタートアップ企業「MycoWorks」と開発した、きのこを原料にした人工レザーを用いたバッグを発表。各社は環境問題や倫理問題への消費者の関心の高まりから、きのこレザーに注目
- 菌糸体を使った照明器具
2020年にフランクフルトで開催された見本市「ハイムテキスタイル2020」では、菌糸類でできた照明器具や菌糸類と赤キャベツの葉を使用した素材を用いたランプシェードが発表された
以下、EISの考察です。
- 菌糸体がもたらす価値は良い効果効能が見込める新商品開発に加え、石油使用量の削減や低環境負荷の素材開発など幅広い。製造プロセスにおいても、温室や細かな管理が不要なため低コストでの生産が可能
- 有力投資家や環境意識が高いセレブ(女優のナタリー・ポートマンやミュージシャンのジョン・レジェンド等)からの支持も受け、先鋭スタートアップは100億円規模での資金調達に成功している
- ロサンゼルスにあるウェルネスショップ「Moon Juice」では、きのこ成分入りのドリンクや霊芝を配合した化粧水、乳液、粉末が多く棚に並び、セレブの間での注目を集めている
- 幻覚作用のある「シロシビン・マッシュルーム(マジックマッシュルーム)」はほとんどの州で依然として非合法。しかし驚異的な治療効果があるとされており、合法化されたコロラド州での研究結果次第では、他州においても合法化が進むことが予想される
- 今後、きのこは多大なビジネスチャンスをもたらすことになる。その可能性がどこまで広まっていくのか、注意深くモニターしていく必要がある
参考記事