米国では、「ブランクチェック(白紙小切手)」企業と呼ばれるSPAC(Special Purpose Acquisition Company: 特別買収目的会社)の設立がブームとなっています。SPACは事業実態はない買収のみを目的とした法人であるが、買収される未上場企業にとっては通常のIPOの手順を踏むよりSPACに買収された方が、短期間かつ少ない工数で上場企業になれる等のメリットがあります。その結果、2020年に米国市場では248件のSPACがIPOを果たし、IPO全体に占める比率も5割を超えました。
米国におけるSPACに関連する特筆的なポイントは以下の通りです。
- 2020年のSPACのIPO合計額は790億ドル、2021年1月は260億ドルと過去最高水準
- 2020年にIPOした494社のうち、SPAC IPOは過半数の248社
- SPAC設立者は従来の著名投資家や有力企業経営者に限定されず、VCファンド経営者、元スポーツ選手などと多岐に渡る
- SPACの株価は一株当たり10ドルで設定されているので、一般人も上場前のSPAC株を購入することが可能
- 2021年2月に入り、日本企業を合併の対象とするSPACがNASDAQ市場で1.25億ドルでのIPOに成功
2021年の大型SPAC合併・買収(M&A)案件の例。
- 遺伝子検査スタートアップの23andMe:35億ドルの企業評価価値でRichard Branson氏が設立したSPACと合併
- 空飛ぶ車スタートアップのJoby Aviation:66億ドルの企業評価価値でSalesforce創業者が設立したSPACと合併
- 電気自動車スタートアップのLucid Motors:240億ドルの企業評価価値で有力M&Aアドバイザリー企業が設立したSPACと合併
以下、EISの考察です。
- SPACによるIPOやM&Aが加熱する背景には、米政府の経済刺激策などが後押しする米株式市場の高騰がある
- 2021年1月の状況を踏まえると、SPACによるIPOとM&Aの数は今後も更に増えていく
- SPACの買収完了期限は2年間とされているので、2021年後半から2022年にかけて、SPAC間で買収先の奪い合いが激化する
- その状況下、良い合併先が見つからず本来はSPACを精算した方が投資家にとって望ましい場合でも、強引にM&Aを進めるSPACが出てくる
- 更に、SPAC以外にイグジット(伝統的なIPOや売却など)の選択肢がない企業を対象としたM&Aが増えていくことが想定される