昨年来のコロナ・パンデミックによる急激なEC化を受けて、マーケティングもデジタル化が加速しています。その流れは大手テック企業の業績からも推し量ることができ、例えばFacebookの四半期ごとの広告料収入は2020年Q4に対前年同期比+31%の270億ドルを記録し、今年に入ってからも対前年で40%以上の成長を続けています。
一方、AppleのIDFAオプトイン化やGoogleによるサードパーティCookieのブロックなど消費者情報保護の動きは強まってきていますし、加えて各社がデジタルマーケティングに注力する時代にあってはマンネリ化や過度のプロモーションなどにより消費者の反発を招く恐れがあるなど、オンラインのみに頼るマーケティングはリスクも大きいと予想されます。そこでEISでは今後オンラインとオフラインをミックスしたマーケティングがより一層重要になってくると考えています。
オフラインマーケティングといえばポップアップストアを含む実店舗での販売や、街頭でのサンプリングなどが考えられますが、前者は準備や立ち上げに時間と費用を要しますし、後者はブランドの世界観を表現したり消費者の自然な反応を把握するのは困難です。
そこで近年、店舗やAirbnbなどで商品を展示し、利用者に試用してもらい、フィードバックを集めたりECストアに誘導する「プロダクト・プレイスメント」のプラットフォームに注目が集まっています。プロダクト・プレイスメントとは本来、映画やテレビドラマの中で小道具などとしてさりげなく商品を登場させる広告手法のことを指しますが、そこから派生して店舗などリアルな場で商品を展示・紹介するという意味でも用いられ、例えばハイエンド家具のWest Elmがホテルと提携して家具を展示したり、ホームサウンドシステムのSonosがAirbnbを通じてスピーカーの露出を増やすなど、以前から限られた企業の間で用いられてきた手法でもあります。そこに昨今、商品の展示場所を探すブランドと展示場所を提供したい店舗・物件オーナーとをオンラインで簡単につなぐことのできるプラットフォームビジネスが誕生してきたというわけです。
ニューヨークを拠点とするGlimpseは昨年のYCombinatorのアクセラレータープログラムに参加し、同年9月にOrigin Venturesなどから$1.5Mの資金調達に成功したばかりの新進気鋭の企業です。同社はすでに7,000件超の店舗やAirbnbオーナーと提携しており、ブランドにリアルな場でのプロダクト・プレイスメントのマーケットプレイスを提供しています商品展示の具体的なプロセスは以下の通りです。
- ブランドはオンラインで自社商品を展示したい場所を選択します。申し込み後、Glimpseと物件オーナーの承認がおり次第、商品が発送され展示が開始されます。
- 店舗を訪れたりAirbnbに宿泊した消費者は展示されている商品を実際に手にとり、許可されているものについては試用することができます。また、商品とともに置かれたQRコードから商品の情報を得ることができます。
- ブランドは消費者から商品に関するアンケートを収集したりECサイトに誘導することで商品購入につなげることができます。展示期間が終了すると商品が返送されて終了となります。
ご紹介したGlimpseの他にも、2019年に創業したShowplaceなどが同様のサービスを提供しており、今後いくつかの有力スタートアップがこの分野を牽引していくことが予想されます。
以下、EISの考察です。
- EC化が進んできた今だからこそ、オンラインとオフラインをミックスしたマーケティングが重要。特にオフライン=リアルな場でのマーケティングや自社商品に対する消費者の反応の把握が相対的に重要度を増す
→デジタルで収集した消費者の反応とオフラインでの消費者の反応を照らし合わせることで消費者像をより具体的にあぶり出すことができる
- プロダクト・プレイスメントは時間・コストと、商品コンセプトの表現のバランスがよく、新しいオフラインマーケティングの選択肢として有力
- 商品コンセプトやユーザー層において自社商品と親和性の高い店舗やAirbnbを選んでプロダクト・プレイスメントを実施することで、消費者の日常に近い環境の中で自社の世界観を打ち出したり、逆に非日常の特別な空間の中で自社商品をPRすることができるなど、さまざまな使い方が可能