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テスラが未来の仮想電力網構築を進めるテキサス

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2021年、テスラは本社をカリフォルニア州のパロアルトからテキサス州のオースティンに移転することを発表しました。CEOのイーロン・マスクはその理由としてシリコンバレー周辺の住宅価格の高騰とそれに伴う従業員の通勤負担を挙げましたが、おそらく理由はそれだけではなく、USMCAの発効に伴うメキシコの重要性を踏まえた決定であったことは想像に難くありません。さらに希代の起業家であるイーロンマスクは、今や世界のすべての自動車会社の合計よりも大きな時価総額を誇るテスラのテキサス移転を利用して、テキサス州政府との関係性を構築、自社の技術を用いて電力ネットワーク改革に乗り出したのです。

目次

州ごとに大きく異なるアメリカの電力供給事情

テスラとイーロン・マスクの取り組みの話に入る前に、まずはアメリカの電力供給事情について確認しておきましょう。アメリカはバイデン政権が2030年までに連邦政府機関における使用電源を100%クリーンエネルギーにシフトすることを宣言し同分野への投資を積極的に推し進めていますが、電力政策においては州政府の力が強く、それぞれの州の事情により電力供給ミックスは大きく異なります。特に太陽光発電は各州の規制や補助金などの政策が大きく影響するため、その普及率はばらつきがあります。太陽光発電の普及を推進している代表的な州はカリフォルニア州、ネバダ州、マサチューセッツ州などで、クリーンエネルギーへの転換を積極的に行っているか、日照量が多く投資効率が高い、あるいはその両方を兼ね備えている州になります。

州ごとの太陽光発電普及に関するデータ: image source: Forbes

一方で太陽光発電の普及は電力料金の上昇とも密接に関わっています。とはいっても、太陽光パネル自体のコストは安価です。Forbesによれば他のどの電力源と較べても最も安価なのが太陽光パネル(下図の黄色およびオレンジの線)です。しかし日中しか発電できない太陽光発電では夜間の電力を確保するために家庭用蓄電池が必要になります。このバッテリーが非常に高コスト(下図のピンクの線)なため、結果的に太陽光発電=電力料金の高騰につながってしまうのです。

電力源ごとのコスト比較: image source: BloombergNEF

再び州ごとの太陽光発電普及に関するデータの表に戻り、一般家庭への太陽光パネルの普及状況を見るとこちらもカリフォルニアが1,000万世帯とダントツです。これは同州政府が新築住宅への太陽光パネルの設置を義務付けるとともに、設置のための補助金も出しているためです。一方、2位に目を向けると185万世帯のテキサスが浮上してきています。テキサス州は全米でも屈指の産油量を誇るなどエネルギー調達コストが安い州として有名です。実際に1kwhあたりの平均電力料金も9.14セントと、全米平均の11.10セントを下回っています(参考までにカリフォルニア州は19.65セントです)。ではなぜ安価なエネルギーを手に入れられるテキサスが全米2位の太陽光パネル設置数になっているのでしょう?実はここにテスラのロビー活動の成果が現れているのです。

テスラのロビー活動がテキサスの太陽光パネル設置を推進

テスラは電気自動車だけでなく太陽光パネル家庭用蓄電地の製造販売も行っています。彼らが目指すのはこれら+蓄電池としてのEVを組み合わせたVPP(Virtual Power Plant=仮想発電所)事業の拡大です。VPPとは、簡単に説明すると家庭や商業施設で発電、蓄電した電力を夏場などの電力需給逼迫時に既存の電力網に送電する仕組みです。テスラは2021年6月にカリフォルニア州でVPPを開始しており、1年後の昨年、テキサス州でも同様の取り組みを発表しました。今年中にはテキサス州でVPPを開始する見通しです。

Image credit: Tesla
テスラ家庭用蓄電池

テキサス移転後(あるいは移転以前から?)、テスラはテキサス州政府に太陽光発電の推進を迫っていました。初期は大規模なバッテリーパックの発電施設への導入をターゲットにロビー活動を展開していましたが、近年は矛先を住宅向けに変更。テキサス州政府は、太陽光パネルの設置に補助金を出すことを決めたのです。テキサス州は前述の通りエネルギーコストが比較的安価な州なので高コストの太陽光パネルを推進するのは違和感がありますが、一方で停電発生件数が非常に多い州としても有名です。電力需要が逼迫した際に各家庭から不足分の電力の供給を得られるということもテキサス州政府の決定を後押ししたと考えられます。

以下、EISの考察です

  • テスラがカリフォルニアやテキサスで進めるVPPが拡大することで、既存の電力網にVPPが接続され本格的な需給コントロールが進む。それに伴いより細かな価格設定(ダイナミックプライシング)や電力需給の最適化を図るパワーマネジメントも行われるようになる。
  • テスラ以外にもGMなど大手企業がこの分野への進出を開始している。VPPは家庭の電力マネジメント(スマートメーター)とも密接につながっており、ビジネス機会が豊富なので今後多くの企業がこの分野に進出することが予想される。
  • 日本においてもVPPの本格始動がまもなくという状況を迎えており、これに関連するさまざまな新規事業、提携、買収の機会が訪れる。

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