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地球は、京都議定書・パリ協定といった様々な合意を経て、気候変動の影響を抑えるために炭素排出を抑制する道を歩んでいます。バッテリーをベースにしたeモビリティに重点が置かれていますが、地球のエネルギーの未来の大部分は、今後水素に依存することになると言われています。現在化石燃料に依存している産業のほとんどは、脱炭素化のために水素に依存することになるでしょう。具体的には、航空輸送、海上輸送、鉄道(非電化ネットワーク)、道路輸送のみならず、鉄鋼、セメント生産、化学工業、暖房、飼料、長期エネルギー貯蔵といった産業も該当します。
特にモビリティ関連産業では、車両や線路の電化は長距離の運用や必要なインフラ整備にかかるコストの観点から最も効率的なソリューションではないため、水素に対する需要は既に高まっています。例えば、世界最大の鉄道産業展であるInnoTransでは、Alstom、Siemens、CRRC、StadlerなどのトップOEMだけでなく、中小企業(PESAなど)でも水素技術のデモが行われ、注目を集めています。
Alstomの水素車両は、4年間の本格的な試験運用を経て、8月にドイツ北部で正式に商業化を果たしました。ニーダーザクセン州に納入された14編成の列車は、100キロメートルに及ぶ路線で徐々にディーゼル機関車に取って代わることになるそうです。
各国のグリーン水素導入への動き
各国政府は、水素供給開発の支援に乗り出しています。欧州を筆頭に世界45カ国が、自国の産業を脱炭素化するための水素戦略を策定し、この分野への大規模な投資を約束しました。
フランスでは、2030年までにCO2排出ゼロ水素の年間生産量を70万トン(現在は4万5千トン)に増やすため、政府は70億ユーロ(約9725億円)の投資を計画しています。また、ドイツでも国内のグリーン水素パイロット事業を拡大するために70億ユーロ(約9725億円)を約束する一方、国際的なパートナーシップを通じて海外での水素調達に20億ユーロ(約2780億円)を投じています。
一方、日本では2021年10月に成立した「第6次エネルギー基本計画」で、2030年までに現在の販売価格の3分の1以下、2050年には水素発電コストをガス火力以下に低減すると目標を定め、水素とアンモニアが一次エネルギーミックスと電力供給ミックスの両方で1%を占めることを期待しています。また、政府は今後10年間で少なくとも3,700億円を投じて水素の研究・マーケティングを加速させ、2050年までに年間水素需要2000万トンを目指すとしています。
また、水素はロシア・ウクライナ危機で問題が浮き彫りとなった、ヨーロッパ諸国のロシアの天然ガスへの依存度を下げるための重要な分野の一つでもあります。EUは2022年3月にREPowerEUプログラムを開始し、2030年までに再生可能エネルギーによる水素の国内生産量を1000万トン、輸入量を1000万トンとする目標を掲げています。しかし、真の脱炭素社会を実現するためには、再生可能エネルギーによる水素製造(グリーン水素など)や排出ガスの回収(ブルー水素*)が必要であり、既存の水素のほとんどが、化石燃料(天然ガス)から製造した水素や炭酸工業(製鉄や精錬所など)の副産物として製造されたものです。
成長を妨げるグリーン水素の製造コスト
現在、世界のほとんどの地域で、化石燃料からの水素製造が最も安価な選択肢となっています。地域のガス価格にもよりますが、天然ガスから水素を製造する場合の平準化コストは、1kgあたり0.5ドルから1.7ドルです。前述のブルー水素と呼ばれる炭素回収技術を使って水素製造時のCO2排出量を削減すれば、平準化された製造コストは1kgあたり1〜2ドル程度に抑えることが出来ます。しかし現在、再生可能エネルギーによる水素製造のコストは、1kgあたり3ドルから8ドルという課題に直面しています。
目標達成のためのグリーン水素の製造法と製造場所
現在のプロセスをより経済的に効率化するために、技術改良が必要です。
- 電解槽:多くの資金力のある新興企業(Verdagy、Lhyfe、Versogenなど)がこの分野に参入し、技術の最適化とコスト削減を図っている
- 水素製造の新しい方法:廃棄物やバイオマスのガス化は、世界中の新興企業(H2 Industries、Haffner Energyなど)が、処理能力と規模を拡大するためにこのプロセスに取り組んでおり、多くの支持を得ている
これらの技術改良を統合しながらも、手頃で効率的なコストで再生可能エネルギーを生産する可能性は十分に残されているのです。
最近のIRENAの報告書によると、EUと東アジアにおいて競争力のあるコストでグリーン水素を製造する能力は、ディーゼル、燃料、灯油の代替としての需要を下回るとされています。この地域の供給と需要ギャップに対処するために、北米やヨーロッパの国々がアフリカで安価で気候に優しい水素とアンモニアを生産するための取引を行うことが予想されます。いち早く水素利用計画を推進したドイツに続き、イギリス、フランス、日本も市場参入し競争が既に始まっています。
アフリカで計画されているプロジェクトや投資
- ドイツのHyphenは2021年11月、ナミビアで年間300,000トンのグリーン水素を製造するため、94億ドルの投資を発表
- イギリスのChariot Energy Groupは2022年6月、モーリタニアで35億ドル、10ギガワットのプロジェクトを発表
- ドイツのH2-Industriesは、エジプトで400万トンの廃棄物を処理し、30万トンの水素を製造する廃棄物発電事業に40億ドルを投じることで合意
- フランスのTotalEnergiesは、子会社のTotal Erenを通じて、エジプトで3万トンのグリーン水素を開発することを約束
- ドイツ政府は水素国家戦略を策定し、2020年にモロッコと、最近ではナミビアとも協定を結び、2022年8月にはいくつかのパイロットプロジェクトにドイツが直接資金を提供
以下、EISの考察です
- 水素革命はすでに始まっており、鉄道産業が示すように、商業輸送への応用はすでに始まっている
- 電解槽、バイオマスといった新しい製造技術や製造地からユーザーまでの輸送において、エンドユーザー産業(輸送、重工業など)には多くの機会がある
- 水素をコスト効率よく生産するための再生可能資源は偏在しているため、調達への投資も重要になる
- アフリカと南米は、適切なコストと二酸化炭素排出量で目標を達成するための重要な地域であり、欧州諸国はすでにこれらの資源へのアクセスを確保している
- ドイツの科学大臣Anja Karliczekが言ったように、「最高の水素技術と水素製造のための最高の場所を求めて、すでに世界中で競争が始まっている」。企業は、これらの地域での水素製造の可能性について、早く投資するか、少なくとも調査する必要がある