サステナブルな社会の実現が問われる中、企業や行政がサーキュラーエコノミーの必要性を理解し、あらゆる取り組みが行われています。サーキュラーエコノミーとは、廃棄物などの無駄を富に変え、再生と利益創造の循環を生む新しい成長戦略です。サーキュラーエコノミーのオピニオンリーダーであるエレン・マッカーサー財団(英国に拠点)は、製品・サービス設計の初期段階から「Eliminate(削除する)」「Circulate(循環する)」「Regenerate(再生する)」という3原則を意識したデザイン思考が大切だと指摘します。
近年、SDGs(Sustainable Development Goals)は企業への出資判断する上でも重要な評価基準となっており、サーキュラーエコノミーに対する機関投資家の投資も拡大しています。世界のサーキュラーエコノミー投資ファンドの運用額は2019年12月時点の3億米ドルから2021年6月には80億米ドルと26倍に拡大し、米国ニューヨークに本社を置く世界最大の資産運用会社のブラックロック社も2019年10月にサーキュラーエコノミーに焦点を当てた投資ファンド「BGF Circular Economy」を設立し、2022年1月時点の運用総額は24億米ドルに達しています。
BGF Circular Economyの組入銘柄は、包装、電子機器、ソフトウエア、アパレル、資源回収など、サーキュラーエコノミーに関する様々な分野および規模の企業となり、特に「Adopters(採用者)」、「Enablers(イネーブラー)」、「Beneficiaries(受益者)」、「Business Model Winners(ビジネスモデル)」の4つのカテゴリーに注目しています。投資先企業には、Adidas、Microsoft、Nike、Unilever、L’Oréalなどのトップブランドも名を連ねます。この世界の流れに敏感な起業家は、様々な切り口からサーキュラーエコノミーに取り組んでいます。私達が注目するスタートアップ企業は以下の通りです。
1. ChopValue https://chopvalue.com/
地域を巻き込んだCircular Economyモデル。B Corp認証企業。
- カナダのバンクーバーに本社を置き、リサイクルされた箸のみから作られた革新的で高性能な素材により、製品とデザインのソリューションを提供
- 同社のサーキュラーエコノミーへの取り組みで特筆すべき点としては、フランチャイズの形態を採用していること。分散型マイクロ製造フランチャイズのネットワークを構築し、地域社会でより資源効率を高めるための役割を果たすことができることを目指している
- 現在、バンクーバー、リバプール、ラスベガス等、世界8か所にマイクロ製造工場を設置
2. Looptworks https://www.looptworks.com/
サーキュラーエコノミーに必要な技術を有する企業と大企業との提携を実現。B Corp認証企業。
- 米国オレゴン州ポートランド市を拠点に、廃棄された素材やプレコンシューマー、ポストコンシューマーの素材を再利用、アップサイクルし、限定製品に仕上げるビジネス
- 2009年、創業者のスコット・ハムリン氏がアパレル業界で目の当たりにした大量の繊維廃棄物の解決策を生み出すことを決意したことから創業。現在では、クローズドループシステムと呼ばれる、様々な業界のブランドに廃棄物ゼロのソリューションを提供し、廃棄物から作られた100%アップサイクル商品を提供
- 2014年に、サウスウエスト航空の航空機の8万枚の革製シートカバーを耐久性があり環境に配慮した素材に交換し、航空機の重量を軽くしてジェット燃料の使用の削減に貢献すると同時に、交換されたシートレザーをプレミアムエコバックコレクションにアップサイクルした。この取り組みがきっかけとなり、テスラ、メルセデスベンツ、パタゴニア、NHL、およびNBA チームとのパートナーシップ締結に成功
3. Made of Air https://www.madeofair.com/
環境への影響が少ないリサイクル原材料の開発。
- ベルリンを拠点とし、さまざまな用途に向けた耐久性のある素材を製造
- 原料は林業から排出されるおがくずや小さなチップを使い、バイオマス技術を利用して化石由来の熱可塑性プラスチックに代わる、製品寿命が尽きたときに土に還る道がある素材を開発
- 自動車メーカーのアウディ(ディーラー店舗に設置する外装パネルの製造)やファッション大手のH&M(バイオマス由来のサングラス製造など)と初期の実験提携を開始
以下、EISの考察です。
- サーキュラーエコノミーへの取り組みは、企業として中長期的な事業の競争優位性を獲得するための、成長市場への先行投資として位置付ける
- そのために、今後の製品・サービスの開発において、素材や部品製造、IoT、ビッグデータ解析とトレーサビリティ、リユース・シェアリング、バリューネットワーク、ビジネスモデルなどを考慮したデザイン思考の強化が必要となる
- また、自社が目指すサーキュラーエコノミーの情報開示と、消費者と共にその世界をいかに実現するかを表現し、消費者との交流と関係性を深めるマーケティング・コミュニケーションに努めることが肝要
- その結果、消費者、従業員、機関投資家から選ばれる企業となり、将来の事業成長に向けた経営力強化と自社ブランド価値向上に繋がる
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