このインサイトについて、さらに詳しく動画で解説しています(11:59)音声:日本語
メジャーリーグベースボールをとり巻く2つの会社をめぐる物語
2021年8月、メジャーリーグベースボール (MLB)は、1938年以来多くのファンを虜にしてきたトレーディングカード企業Topps社との70年にわたるパートナーシップを解消しました。MLBの新しいパートナーは、スポーツアパレルのスタートアップであるFanaticsで、今回の提携を機に新しくトレーディングカード事業を立ち上げます。また、Fanaticsの子会社であるCandy Digitalは、MLBのNFT独占権を取得します。このMLBの発表に先立ち、Toppsは今年初めにSPACを介して株式を公開し、約13億ドルの評価を受けていました。一方Fanatics社は、3億2500万ドルの資金調達を完了したばかりで、評価額は180億ドルに達しています。
この2社の正反対の軌跡は、ブロックチェーン技術とNFT(Non-FungibleTokens)がスポーツ業界にもたらす大きな可能性を示しています。
プロスポーツ界におけるNFTの可能性
プロスポーツ界の現状は、この未知の新技術を導入するのにふさわしいといえます。まず、パンデミックの影響で世界的に業界の収益が落ち込んでいます。一部のリーグではロックダウン期間中も試合を続けることができましたが、スタジアムの入場者数やそれに伴う収益は、パンデミック前の水準まで回復していません。また、Z世代やミレニアル世代の若者は親世代ほどスポーツに興味を持っておらず、テクノロジーを駆使した異なる方法でコンテンツを消費しています。一方で古くからのファンは相変わらずリーグやチームに対する忠誠心が強く、スポーツ関連のコレクターズアイテム市場はここ数ヶ月で強力な復活を遂げています。これらの要因を背景に、プロスポーツのリーグやフランチャイズはファン体験におけるNFTの可能性を模索しています。
NFTとは何か?
NFTは複製不可能な唯一無二の資産であり、イーサリアムのブロックチェーン上で動作するこの技術を使って、多くの興味深い製品が作られています。NFTは画像や動画などのデジタル商品の所有権を認証する手段として利用されています。そして、その市場は急速に拡大しています。NFTマーケットプレイスの1つであるOpenSeaでは、8月の月間取引量が10億ドルを超えました。
人気のあるスポーツNFTには、3つの重要な特徴があります。
- 本物のコレクターズアイテムであり、限定発売や一点ものであることが多い
- 特別な体験ができる
- 限定コミュニティへのアクセスを提供する
かつてのスポーツコレクターは、記念すべき試合で着用したユニフォームや、記録達成時のボールなど、実際に試合をした時の記念品を大切にしていました。また、限定発売されたトレーディングカードや美術品にも価値があり、それらには多くの場合シリアルナンバーが入っています。これらの現物は、専門家やコレクターコミュニティのメンバーによって査定され、認証されます。一方、デジタルスポーツグッズはバーチャルグッズであり、簡単に複製できるファイルです。そこで、真のコレクターにとってNFT技術は、これらのバーチャル商品の所有権と譲渡を示す唯一の検証可能な方法となっています。現実世界のカードやサイン、その他の記念品は偽造される可能性がありますが、NFTの真正性は、一般にアクセス可能なブロックチェーンの登録によって簡単に検証できます。
NFTを利用したスポーツ界における4つのスタートアップ
デジタルグッズは単なるコレクションの一部ではなく、それ以上の価値を持つ可能性も秘めています。スポーツ業界では、NFTグッズの新たな利用法を試みているスタートアップがいくつかあります。
例えば、Sociosは、ファンエンゲージメントプラットフォームで、NFTをベースとしたファントークンを作成しています。このトークンは、アプリ上のミニゲームの一部として、またはプラットフォーム上のマーケットプレイスを介したピアツーピア取引によって獲得できます。Sociosは、FCバルセロナやパリ・サンジェルマンなどの一流のサッカークラブとパートナーシップを結び、チームのファン・トークン保有者に、キャプテンの腕章のメッセージやゴール・セレブレーション・ソングの選択など、クラブのためのマイナーな決定を行う投票権を与えています。
ファンタジーサッカーのプラットフォームであるSorareには、世界中の180以上のパートナークラブがあります。ユーザーは、Sorareのマーケットプレイスで選手のトレーディングカードを購入し、実際の試合でのパフォーマンスに基づいてチームを作り、コミュニティ内の他の人たちと競い合うことができ、このデジタルカードを持っている人だけがアクセスできる新しいタイプのスポーツプラットフォームとなっています。
いま最も人気のあるNFTは、保有者に限定コミュニティへのアクセスを提供しています。スポーツの世界では、NFLのレジェンドであるTomBradyが共同設立し、大坂なおみ、Tiger Woods、Wayne Gretzkyなどのスター選手が支援しているスタートアップ企業Autograph.ioが、週に2回、NFTベースのバーチャルグッズを発売しています。これらのグッズの所有者は、プライベートなDiscordコミュニティやその他のバーチャルイベントに参加することができます。
NBA TopShotは、NFTバスケットボールのハイライトビデオを取引する人気のプラットフォームで、ユーザー同士が自分のコレクションを披露する機会を提供しています。著名なユーザー(このプラットフォームには多くのNBAスターが参加しています)は認証されたプロフィールを持っており、ユーザーはリーダーボードで自分の順位をお気に入りのスターと比較することができます。
以下、EISの考察です
- 現在、プロスポーツはZ世代の関心を引くのに苦労していますが、Z世代は他の世代よりも体験やコミュニティを重視しており、スポーツフランチャイズは新時代のファンとのつながりを強化する方法としてNFTグッズの利用を検討すべきである
- NFTの技術は、人気とメディアの注目を集めており、ユースケースも増えています。試合や記者会見のたびに新しいコンテンツが生まれていることもあり、スポーツにおけるNFTには大きな拡張性があると考えられる
- スポーツは趣味の世界であり、ここでNFTのユースケースが確立されると、今後あらゆる趣味の世界での応用の可能性があり注目すべきである
参考文献