2020年10月、菅首相が所信表明演説で「2050年に二酸化炭素排出量と除去量を差し引きゼロにする『カーボンニュートラル』を目指す」という方針を宣言しました。EUは2019年に先行して「2050年実質ゼロ」の目標を打ち出し、現在は既に120以上の国や地域が賛同しています。中国も2020年に「2060年実質ゼロ」を表明し、アメリカではトランプ政権がパリ協定を離脱してサステイナビリティから距離を置いていましたが、バイデン政権によって2021年2月にパリ協定に正式復帰しました。これで世界主要国は全て、これから30-40年にかけての「CO2排出実質ゼロ」に向けて動き始めました。
EUはCOVID-19感染拡大で打撃を受けた経済を環境投資で立て直す「グリーンリカバリー」を打ち出し、バイデン政権は「気候変動」を4大重要政策の1つと位置付けて環境・インフラ部門に4年間で過去最大規模の2兆ドルという巨額投資をすると公約しました。これにより、世界的に再生可能エネルギーの活用や電気自動車(EV)の開発が進むだけではなく、EUが形成した「EU taxonomy」というサステイナビリティに関する判断基準や、企業のESGへの取り組みに関する消費者の評価次第で企業のブランド価値が問われ、資金調達など事業経営における競走条件が大きく影響受けることになります。
この様な動きに感度が高い新興企業は、脱炭素を実現するための技術・サービスにいち早く取り組み、自社事業をより持続可能なものにする方法を模索しています。
取組み例:
- EC最大手のAmazonは20億米ドル(約2200億円)の投資プログラム「Climate Pledge Fund(気候変動対策に関する誓約のための基金)」を2020年6月に設立。この基金は、持続可能な技術やサービスの開発を支援するもので、運輸、物流、発電、倉庫スペース活用、製造、素材、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)、食品、農業などさまざまな業界の先見性のある企業に投資
- 中小企業向けに自社ECサイト構築ツールを提供するShopifyは、マーチャントやバイヤーに対して、配送時のCO2排出をオフセット(相殺)するオプション機能を提供
- 今月、約580億円の資金調達に成功したスペインのオンデマンド配送スタートアップ「Glovo」は、シリコンバレーの「カーボンニュートラル」のモニタリングと森林再生支援に取り組むスタートアップ「Pachama」と提携して、今年度中の「カーボンニュートラル」実現を宣言
以下、EISの考察です。
- クリーンテックへの取り組みは、地球環境の未来にとって重要な施策であるという以上に、世界市場の中で自社のプレゼンスを示す絶好な機会である。
- 特に欧米中の間で起きている価値観やルール制定における主導権争いは、良い意味でも悪い意味でも、新たなグローバル・トレンドやリスクを生み出す。
- この千載一遇のチャンス獲得を狙う起業家は新しいアイディアでのビジネスを次々と生み出し、投資家からの多大な資金調達に成功して世界市場に新たな革命をもたらす。
- 経営者にとっては今後、グローバルで繰り広げられる多面的な地政学的状況を読み取り、新鋭企業の動きをモニタリングし、最適なパートナーと提携することで新たな事業機会を開拓する攻めの姿勢が問われる。
参考文献